本年度の研究では、昨年度と同様にアジア地域内における労働移動と産業構造変化に関して国際移民の決定要因に着目して分析を行うとともに、いわゆる中所得国の罠に関する分析についても再検討を行った。これら2つの分析項目について共通する課題の一つとして未熟な脱工業化、つまり途上国の経済発展プロセスにおいて所得水準が十分に上がる前に工業化が頭打ちとなり、サービス業へと産業構造の比重が移るなど脱工業化が進むという問題が挙げられる。先進国との生産性格差が縮小しないままに脱工業化が進むことで経済成長のスピードが鈍くなり、結果的に中所得国の水準から脱することができずにいる途上国が存在することが分析として明らかになっている。また、途上国自身の所得水準が上昇しないことが所得水準の高い国への国際移民の移動要因の一つとして挙げられることが2つの分析結果から示されることになった。 まず、アジアにおける中所得国の罠に関する実証分析では、先行研究で示されているとおり、工業部門の労働人口比のピークが通時的に低下していること、1人あたり所得にみる全体に対する工業部門の労働人口およびGDPの比率で示される逆U字が通時的に低下していること、またこれらの関係がGDP比率に比べて労働人口比率でより明らかなことが本研究の分析結果でも得られている。 2つ目の国際移民の決定要因に関する分析では、移動先で同じ出身国からの既存の移民数が多ければ国際移民は増大し、また移動コストの擬似変数である地理的距離が長くなると国際移民は減少することが示された。加えて、所得格差や人口動態を示す変数が正の統計的有意性を示すなどの分析結果も得られている。なお、東アジア諸国に比べて南アジア諸国の未熟な脱工業化が明らかであり、結果として生産性格差による所得水準の違いが国際移民の増大の要因の一つとして挙げられることになった。
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