2018年度に、2回の現地調査(9月に天津・吉林・安徽、3月に北京・天津・江蘇・上海)を実施し、新たな都市化政策下における農村都市間人口移動の実態、農村社会と農業経営、および都市部の住宅バブルに及ぼす人口移動の影響について視察し、関係者からヒアリングしたり、一次資料の収集を行った。 この間、人口センサス、個票データおよび現地調査の一次資料を用い、中国における戸籍制度改革、農民工の市民化および都市化の展開、農業の近代化などに関する実証分析を続け、以下のような知見を得るに至った。 第1に、市場経済化の深化、農村労働の枯渇が象徴するような二重経済構造の転換を背景に、「農業」から「非農業」への戸籍転換、農村から都市への戸籍の転出入の規制緩和を主内容とする戸籍制度改革が漸進的に行われ、2015年に「農業」「非農業」といった戸籍の区分自体が撤廃されるに至った。近年、戸籍に絡む教育や就職、社会保障における農民差別も是正されつつある。農民工の市民化および新型都市化は目覚ましい進展を遂げている一方、上海などの大都市を中心に移住規制が依然として厳しく、新旧住民による二重構造の解消は長い時間を要する。 第2に、農村から都市への人口流出に伴い、農地の流動化が加速し、農業経営の規模拡大が実現されつつある。農業技術の進歩・普及とも相まって、中国農業は零細な家族経営から近代的な企業経営へ脱皮しつつある。 第3に、都市人口の急増で住宅に対する需要拡大が膨らみ、住宅価格の急騰がもたらされた。不動産バブルの深刻化を背景に、特権階層と平民との資産格差が広がり、歪な不動産市場のマクロ経済への影響も懸念される。
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