平成30年度は、平成29年度の研究を引き継ぎ、資源の呪いと海外援助の有効性についての研究を行ってきた。本研究課題では、途上国発展を阻害する最も重要な要因として、途上国内での暴力的紛争を取り上げてきた。平成29年度までは、異なる2つのグループが期待収益最大化を目指す結果として紛争を起こすと仮定してきた。これに対し、平成30年度の研究では、紛争を引き起こすグループを「民族」ととらえ、2つの民族が紛争を引き起こす理由として、「民族間格差」を取り入れた理論モデルを構築し、天然資源が、民族間格差を拡大し紛争を発生しやすくするメカニズムを理論的に明らかにした。 この研究では、初期時点で、労働生産性について2民族間に格差が存在すると仮定している。これは、実際の途上国経済において、肥沃な土地を保有する民族とそうではない民族がいる社会を想定している。この社会において、天然資源による収益はレントシーキングにより配分されるとし、個人は労働とレントシーキングに時間を配分する。この場合、天然資源は短期的に格差を縮小させる可能性がある。一方で、労働生産性が労働時間に依存して成長する場合、天然資源は民族間格差を拡大させていくことが示された。 この研究成果については、平成30年度末に研究会で発表し、様々な修正意見を受けた。現在は、この修正意見を取り入れながら論文として作成中であり、平成31年度中に、研究会・学会での報告、および学術雑誌への投稿と掲載を目指している。
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