自国に企業1と企業2、外国に企業3が存在する国際寡占下の2国モデルを想定し、貿易・直接投資(FDI)自由化が自国および外国の経済厚生に及ぼす影響について理論分析を行った。自国・外国政府の設定する関税率を所与とし国際寡占市場における企業間競争として次の3段階ゲームを考察した。第1段階で企業1と企業2は外国市場に輸出で参入するか、それともFDIを行い現地に子会社を設立し、その工場から外国市場に供給するのか、いずれかを選択する。第2段階では企業1および2は自社の限界費用を削減するR&D投資水準を選択する。第3段階では自国市場と外国市場において3企業がクールノー競争を行う。以下は部分ゲーム完全均衡の特徴である。 自国企業が両方とも輸出で外国市場に参入する輸出レジーム、両方ともFDIで参入する完全FDIレジーム、そして一方がFDI、他方が輸出で参入する部分FDIレジームの3つの均衡タイプが、外国政府の関税率t*およびFDIにかかる固定費用fの2つのパラメータに応じて実現する。所与のfに対し、t*が大きいほど完全FDI、小さいほど輸出レジームとなる。そして、t*が中程度の大きさであれば部分FDIレジームとなる。また、部分FDIレジームでは、自国企業間で費用構造と参入形態において異質性が内生的に生じる。つまり、輸出企業はR&D投資水準が非常に低く高費用となり、他方、FDI企業はR&D投資水準が非常に高く低費用となる。Melitz (2003)等の従来の戦略的相互依存関係のない異質企業間の独占的競争の貿易・投資モデルと異なり、企業の戦略的行動を伴う国際寡占モデルにおいて企業の異質性の内生的に説明した点が本研究の貢献である。 さらに貿易・投資の自由化の経済厚生効果について企業の外国市場への参入形態および費用構造の両方における異質性が自国にマイナス、外国にはプラスの影響をもたらすことを示した。
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