本研究は、都市化(Urbanization)が生活の質(Quality of Life; 以下、QoL)に与える影響を(1)社会関係資本(Social Capital)、(2)知的資源・人的資本(Human Capital)、(3)都市基盤(Public Capital)という3つの構成要素の観点から分析するものである。都市化のQoLに対する影響はさまざまな分野で研究されているものの、学問横断的に研究されていることもあり、未だ明確な結論が得られていない現状である。このような背景を受け、本研究では、既存の研究を体系的に分類した上で、QoLに与える都市の要素をより細かく分解し、これら個々の要素がどのようにQoLに影響を与えているのかをより精緻に分析することを目的としている。最終的には、人々のQoL向上に資する都市政策とは何か、またQoLの観点からの最適都市を提案する。 研究初年度にあたる平成27年度には、主に既存研究の整理、類型化を実施した結果、同国、同地域でも、都市の要素がQoLに与える影響には一貫性がないことが明らかとなっている。これらの結論を受けつつ、平成28年度には、上記のさまざまな構成要素が(要素の代理変数に依存するところはあるものの)人々のQoLに影響を及ぼすことが明らかとなっている。最終年度の平成29年度には、さらに我が国の地域レベルのデータを用い、各資本の与える影響を分析したところ、この効果は、居住地や世代によっても異なることが明らかとなった。この結果は、先行研究からは得られていない知見であり、非常に有益な成果であると自負している。「国レベル、地域レベルだけではなく、居住者レベルの経済社会的背景に応じて都市化が与える影響は異なる」という結果を受け、今後はより詳細なデータ(個票データなど)を用い、精緻な分析を行う予定である。
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