インドネシア製造業に外資系企業が参入した場合,地場系企業の生産性は低下するのか。この問題に答えるために,同国製造業の事業所・品目レベルのマイクロ・データを用いて分析を行った。その分析は生産性スピルオーバー効果分析と呼ばれ,従来,事業所レベルのデータを用いて行われてきた。事業所レベルのデータを利用した場合,地場系事業所は分析期間を通じて1つの産業に分類され,その産業における外資系のプレゼンス(例えば,外資系の産出額シェア)との相関があるかないかがスピルオーバー効果の有無の判断基準となる。しかしながら,1つだけの製品を特定期間作り続ける企業だけでなく,複数の製品をその組み合わせを時間とともに変化させる企業も存在する。そのような企業が存在する場合には,従来の事業所レベルを用いた分析では不十分である。 よって,事業所・品目レベルのマイクロ・データを用いて生産性スピルオーバー効果の分析をおこなった。外資系のプレゼンスは外資系の産出額シェアの加重平均として計算される。加重には,地場企業の当該年における製品ごとの産出額シェアを利用した。Levinsohn and Petrinの方法によって推定された生産性指標を被説明変数としてパネルデータ分析を行った結果,従来の分析手法による結果と同様に,生産性スピルオーバー効果が存在することを示す結果が得られた。生産性スピルオーバー効果には,技術の伝播による効果と競争促進効果がある。後者は,例えば競争激化により効率の悪い製品のシェアを下げることで生産性の向上が計られる。そこで,シェアを上げた製品と下げた製品を分類し分析したが,特に統計的に有意な違いはなかった。また,下流産業における外資系のプレゼンスについても同様の計算を行い後方連関効果の分析を行った結果,正の効果が認められたが,同産業のプレゼンスも同じ回帰分析に入れた場合には統計的に有意でなくなった。
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