本研究課題は、アフリカにおける産業構造変化について、これまで先行研究ではほとんど扱われていなかった労働コストに注目し、その影響を実証的に分析することを当初の目的としていた。文献サーベイを進める中で、経済成長論において、近年、農村と都市の労働生産性格差が国全体の労働生産性におよぼす影響を実証的に分析する研究が増えていることを知り、本研究課題の仮説をサポートする実証結果が示されていることが分かった。他方で、低所得国で生産性格差が大きい理由についてはまだ分析が進んでいないが、都市と農村間の労働移動の低調さを論じる文献がいくつか見られている。 こうした研究動向は、必ずしもアフリカや低所得国の産業構造変化に結び付けて議論されていないため、本研究会課題において文献を整理し、最終年度に論文を執筆した(未公刊)。また、労働移動について実証的な分析が可能かどうか、エチオピアの労働者調査を入手して検討を行ってきた。データの分析から、都市レベルにおいて、労働供給の変化が若年層の雇用率と有意な相関があることが分かり、農村部からの労働移動が乏しいと推測された。また、ガーナとケニアの労働者調査を検討したところ、都市部での若年層の雇用率(特にフォーマルセクター)が上昇していることが分かったため、これらの国では、農村から都市への労働移動の誘因が強く働いていたことが推測される。さらに各国での労働移動の実態を知ることができれば、都市賃金への影響について検討できる。 研究の進捗にあたって、労働移動のデータが非常に少ないことが制約となっており、本研究課題では間接的に検証を行ってきた。今回の成果は、今後の実証分析に生かすことができる。
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