研究期間の最終年である平成29年度は,地方自治体の効率性に関するこれまでの研究成果を,二つの論文にまとめた. 第1に,地方交付税制度と健全化法の財政規律に対するインセンティブ効果をストック面から評価する論文を,5月の日本地方財政学会において報告し,査読付き論文(鷲見:2018a)として完成させた.本研究で独自に構築した公共サービスデータを用いて,将来負担比率がゼロ以下に低下した自治体や将来負担の償還に係る国負担見込額と特定財源見込額が大きい自治体ほど,財政規律を弛緩させたかどうかを確率フロンティア分析によって検証した.分析結果から,特定財源見込額という算定上の財政支援が,将来負担が存在する自治体の財政規律を弛緩させたこと,また,将来負担比率が悪化した自治体では,国負担見込額の増加によって財政規律が弛緩し,効率化が弱められたことが確認された.本研究から,限定的ではあるが,健全化法に潜む費用最小化に対するディスインセンティブ効果の存在が確認された. 第2に,地方政府の効率性を扱った海外の研究では,政治的競争や住民の政治参加の高まりが効率性の改善をもたらす実証結果が示されており,この結果が支持されるとすれば,政治的競争を阻害するわが国の地方自治体における無投票当選の常態化には大きな問題ある,といえる.そのため,鷲見(2018b)では公共サービスデータを独自に構築し,確率フロンティアモデルを用いて,地方自治体の首長選挙における無投票当選等の政治的状況が,地方財政の効率性に与える影響を分析した.その結果,無投票当選が効率性を低下させるという結果が得られなかったものの,長期政権化が財政運営が非効率を招くこと等が確認された. ただし,本研究では,確率フロンティア分析において,真固定効果を考慮するなどの分析手法の改善が十分に行えず一部に課題が残された.これらの改善は今後の研究課題とする.
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