研究課題/領域番号 |
15K03507
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
中村 和之 富山大学, 経済学部, 教授 (60262490)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 公共経済学 / 所得分布 / ローレンツ支配基準 |
研究実績の概要 |
本年度は,複数属性に基づき地域間格差を評価するための理論的枠組みの構築を図った.特に,所得以外の属性が序数的である場合に,所得とその他の属性の分布を比較することで社会厚生を評価する手法のひとつ(逐次的一般化ローレンツ支配基準)を用いて支配関係の有無を検証するための新たな手法を開発した.逐次的ローレンツ支配基準は,所得以外の属性の分布が不変である場合,所得以外の属性で表されるニーズの高い人々から順に比較対象として加えながら一般化ローレンツ曲線による比較を繰り返し行い,二つの分布の間で支配関係の有無を検証する.しかし,所得以外の属性の分布が比較対象となる分布の間で異なる場合には,支配基準の背後で想定される効用関数の性質に若干の制限が加えられるとともに,一般化ローレンツ曲線による比較はできず,数値積分を用いた分布関数の直接的な比較が必要であるとされてきた.本研究において開発した手法では,比較対象となる分布に若干の変更を施すことによって,一般化ローレンツ曲線を用いて支配関係の有無を検証できる.これによって,逐次的一般化ローレンツ支配基準を用いた分析とその結果の提示が容易になり,同基準の利用可能性が高まることが期待できる.また,同様の手法を用いて各属性ごとに貧困基準を示して二つの分布の間で貧困に関する支配関係の有無も検証できることも示した.本研究は本年度末において基本的な分析を終えており,次年度には先行研究との関連性や数学的な表現を整え,論文として発表予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると判断した理由は下記の通り. ・当初の計画通り,Atkinson and Bourguignon(1987)が提示した逐次的一般化ローレンツ支配基準とその一般化であるJenkins and Lambert(1993)やChambaz and Maurin(1998)らが示した支配基準が一般化ローレンツ曲線を用いて評価可能であることを示し,この結果を学術雑誌に投稿できた.投稿した論文はローレンツ支配基準を優数列(Majorization)の概念を用いて整理しているが,査読者から確率優位(Stochastic dominance)の枠組みで整理すべきとの示唆があったので,これに取り組み,ほぼ作業は終えた. ・同じく本年度に計画していたNonnegative price majorization基準の検証手法については,ほぼ完成させることができた.開発した検証手法はこれまで概念提示にとどまっていた同基準の応用への途を開くものであり,本研究課題に沿った応用分析を行う目途がついた.なお,本研究は分析手法の数学的表現に関して若干の課題を残しているので,次年度以降,さらに研究を進める. ・本研究課題に先立ち,申請者が本研究で用いる分析手法について発表した論文が,多変量を考慮した貧困や所得格差の分析に関する近年の展望論文(2015年)で引用されており,本研究の方向性が所得格差や地域間格差研究の分野で一定の評価を得ていることが確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
研究はおおむね予定通り進んでいるので,平成28年度は当初の予定通り,これまでに構築した分析手法を用いて,地域間格差の分析を行い,実際に分析を行う上での課題や問題点を明らかにしてその解決に努める. 本研究課題の遂行にあたっては,所得やその他の属性を離散的な分布を基本として考察してきた.しかしながら,研究成果を所得格差や貧困研究の分野で適切に位置づけるには,先行研究の蓄積が豊富な連続的な分布を基礎とした定式化も必要であることがわかった.このため,次年度以降では分析手法の構築にあたり,既存研究の枠組みに沿った定式化や表現を工夫するとともに,本研究の特徴である離散的な分布に基づく分析手法の応用分析上の意義についてより詳細な研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に購入予定であった図書を手続の都合上,翌年度購入としたため,物品費に余剰が発生した.また,当初予定していた専門知識の提供等について,学会や研究集会への参加による研究動向の情報収集に切り替えたため,費目間の変更が発生するとともに,旅費+人件費・謝金の総計で余剰が発生した.また,英語論文の校正等で発生する費用を見積もっていたが進捗状況に合わせて繰り越すこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
今後は,論文の作成に伴って校正等の作業が発生するので余剰分を充当する.また,当初予定していた図書の購入等で,当該年度分の余剰は解消する予定である.
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