研究課題/領域番号 |
15K03509
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小野 哲生 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (50305661)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人的資本 / 教育選択 / 厚生 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,研究目的に記載した第二の研究課題である公教育と経済成長の研究に取り組んだ.具体的には,2階層の世代重複モデルを用い,そこに家計の教育選択(公教育と私教育)を導入し,世代内の所得不平等と教育選択の相互作用に注目した.このモデルを用いた分析によって,以下の結果を示した. 第一に,このモデルからは,2つの局所安定的な均衡が得られることを示した.一つは高い不平等度と高い私教育選択率で特徴づけられるものであり,もう一つは低い不平等度と低い私教育選択率で特徴づけられる.この結果は,クロスカントリー・データで観察される不平等度と公教育参加率に関する負の相関と整合的である.つまり,モデル分析を通じて,負の相関がどのようなメカニズムで発生するかを明らかにした点に,第一の結果の貢献がある. 第一の結果からわかることは,公教育の選択を強制すると低い不平等が実現されるということである.しかし,公教育の強制が将来世代の厚生に与える影響については不確かである.そこで,公教育の選択を強制する制度の導入効果を定量的に分析した.分析の結果,公教育の強制は人的資本蓄積を促し将来世代の厚生を改善するものの,もともと私教育を選んでいた現在世代の厚生を悪化させるため,パレート改善の実現は不可能であることを示した. この結果は,複数均衡が不平等度の観点からはランク付けされるものの,厚生の観点からはランク付けが不可能であることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時に提出した第2年度の研究計画からは,国債発行による政府支出のファイナンスという側面を捨象した分析を行ったが,代わりに家計の教育選択の役割を強調した分析を行ったため,当初予定していた研究の焦点は大きくずれていない.研究計画に沿った方向で論文を執筆し,国際コンファレンス(3月2,3日,Louvain-la-Neuve(ベルギー))での研究報告も行ったため,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
第1,2年度の分析を通じて,各個人が2期間(若年期と老年期)を生きる世代重複モデルを用いた.このモデルにおいて,老年世代は貯蓄を取り崩して,あるいは年金給付を利用して消費をするだけであり,彼らの租税負担等については考慮していなかった.しかしながら現実には,老年世代は貯蓄のリターンに対する利子(資本)課税を通じて財政負担を担っている.そこで今後の研究では,老年世代への資本課税に注目し,投票を通じた世代間対立が老年世代の税負担と経済成長,世代間厚生に与える影響を分析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
国際コンファレンスに出席のための旅費が不足恐れがあったため,次年度予算からの繰り入れを行ったが,想定していたほどには旅費の支出費用がかからなかったため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
その他費目として,英文校正や文献購入に充当する予定である.
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