最終年度である平成29年度は,本研究課題の3つ目のテーマである失業と再分配,経済成長の研究に取り組んだ.失業の原因として,労働組合と企業間の賃金交渉を想定し,均衡における失業の発生を描写した.また,再分配政策として,失業者に対する失業保険給付と,退職者に対する公共支出を想定した.これらの給付は,就業者に課される労働所得税と公債発行でファイナンスされると想定した. 以上の枠組みの下で,次の様な問いに対する分析を行った.失業保険給付に関する就業者と失業者の間の世代内対立と,退職者向けの公共支出に対する若年世代と退職世代の対立は,政策決定においてどのような相互作用をもたらすのか?この2つの対立は,再分配政策の決定を通じて経済成長と失業率にどのような影響をもたらすのか?公債発行による政府支出のファイナンスを禁止し,均衡財政を目指すと,経済成長と厚生についてどのような影響をもたらすのか? 分析を通じて,次の様な結果を得た.第一に,労働組合の交渉力増大は,失業率を低下させ,公債残高を低下させるが,一方で経済成長の低下ももたらす.第二に,退職者の政治的影響力の増大は,失業者への給付を減らし,退職者への公共支出増大をもたらす.第三に,公債発行による政府支出を禁止し,支出はすべて税でファイナンスするような均衡財政制約を課すと,経済成長率が改善し将来世代の厚生が改善するものの,現在世代の厚生が悪化する.つまり,均衡財政の制約は,世代間のトレードオフをもたらすことが示された.
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