国家間の競争により法人税の法定税率は世界的に低下してきており,わが国もその例外ではない.企業行動への歪みが懸念される法人税の存在理由が,現在,問われてきている.本研究では,法人税の意義と法人課税の制度設計について,準実験の手法を駆使しデータを読み解くことを通して,政策議論に役に立つ実証的根拠を提供することを目指した. 1.明治期の法人成り:1887年の所得税導入時に法人税が存在しなかったことに着目し,税逃れのための法人化を検証した.日本企業の系譜図に基づいた独特な情報源を活用し,個々の企業の意思決定を分析した.所得税導入を境に個人事業主の割合が急減しそれに代わり簡易な法人形態がのびていることが観測された.法人税がない状態では節税を目的とする「法人なり」がおこるため,法人税は所得税を補完することが実証された.国際共同研究論文を国際ジャーナルで公表した. 2.企業再編と税制:企業の所有する資産や知識はM&A市場を通じて所有者移転する.M&A制度設計において企業税制は要諦である.本研究では,わが国でM&A市場円滑化のために導入された施策の有効性を考察した.分析を進めるうち,租税回避の誘因が予想以上に重要な影響力をもつことが示唆されたため,研究の軸を特定の節税スキームに移行し実証分析を行った.その結果,最高裁で係争された事例では約210億円の節税がおこなわれたが,サンプルでの試算から9倍程度の税収減が明らかになった.制度導入時における節税の事実上容認は企業再編のための「隠れた補助金」として機能したとも捉えうるが,経済効率性への影響や公平性からの評価は,今後の法人税制を考えるうえで議論されるべき点であろう.研究成果のダイジェストを国内一般誌で公表したほか,研究を通して得た教訓から平成29年度税制改正を考察し日本経済新聞に寄稿した.国際共同論文は国際ジャーナルに投稿中である.
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