研究課題/領域番号 |
15K03514
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 章 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (10294399)
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研究分担者 |
乃村 能成 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (70274496)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 少子高齢化 / 人口減少 / シミュレーション分析 / 少子化対策 / 年金改革 / シルバー民主主義 / 世代別選挙区制度 / 移民政策 |
研究実績の概要 |
昨年度は、日本における少子高齢化・人口減少に関わる問題の解決策の一つとして、移民政策の効果について分析を行った。移民の人数・時期を自由に設定できるように「人口内生化世代重複シミュレーションモデル」を拡張した。特に、移民政策による移民の総数が一定の場合(毎年の移民の流入数は同じ)の、最適な移民政策の期間に焦点を当てながら、日本での移民政策が将来人口の推移や一人当たりの厚生に与える影響を分析した。 その結果、無限先の将来世代の厚生も勘案した場合、一人当たりの厚生が最大化される、最適な移民政策の期間は9年になった。これは2014年に日本政府が表明した移民計画(毎年20万人10年間)に比較的近い結果であるが、この結果は、現行の子育て支援の水準を前提としており、また、移民が日本人と全く同じとの仮定の下での結果であることに注意が必要である。というのも、政府は2014年に具体的な人口目標を設定し、少子化対策に本腰を入れる姿勢を表明しており、また、日本に来る移民は(日本人ネイティブとは異なる)3つの特性(高い出生率・短い寿命・低い労働生産性)を有すると考えられるからである。 そこで、育児支援が現行水準よりも増額された場合の、最適な移民政策の期間について調べた結果、育児支援が促進されればされるほど、移民政策の最適な期間は短くなった。この理由は、育児支援政策は中長期的に人口増をもたらし、経済にプラスの影響を与えるが、子どもが成人するには20年ほど時間が掛かるからである。この時期に移民の受け入れを集中させることによって、この当初のマイナスの影響をカバーすることが可能である。また、日本に来る移民について、高い出生率・短い寿命・低い労働生産性という3つの特性を考慮した場合には、そのいずれもが移民政策の最適な期間をより短くした。この理由として、これらのいずれもが、移民の実質的な労働力の減少を招くことが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では「人口内生化世代重複シミュレーションモデル」を使用して分析を行っているが、この分析モデル自体を改善し、精緻化を図ることができた。具体的には、以前のモデルでは全ての家計が85歳まで生き、その後全員死亡する「死亡時期の確実性」を仮定していたが、家計の各年齢に生存確率を導入し、最大で105歳まで生きる「死亡時期の不確実性」を含むモデルに拡張した。また、子どものコストとしてこれまで金銭的コストしか考慮していなかったが、それに加えて育児の時間コストを導入した。これらの拡張によって、より現実に近いシミュレーション分析を行えるようになった。 さらに、移民政策を明示的に取り扱えるように、このより精緻化されたシミュレーションモデルの拡張を行った。具体的には、移民の人数と時期を自由に設定できるように修正し、また、移民の(日本人ネイティブとは異なる)3つの特性(高い出生率・短い寿命・低い労働生産性)が取り扱えるようにモデルに修正を加えた。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカ、ドイツ、フランスなど多くの先進国が、昨今の急激な寿命の伸長に対応して、年金の支給開始年齢の引き上げを決定している。その一方で、これらの国よりもさらに平均寿命の長い日本の標準的な年金支給開始年齢は65歳のままである。そこで、日本の標準的な年金支給開始年齢を段階的に引き上げ、70歳を標準的な支給開始年齢とする改革を行った場合の定量的な影響について、特に一人当たりの厚生や将来人口の推移に着目しながら分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大変複雑なシミュレーション・プログラムの計算を遂行するため、計算速度の優れたパソコンを購入する予定であった。しかしながら、昨年度において購入予定であったパソコンの計算速度は、必要とされる水準と比べて必ずしも十分ではなく、また、このようなパソコンの機能の向上は日進月歩であることを考慮して購入を見合わせた。 (使用計画) パソコンの計算速度を慎重に見極めたうえで購入する予定である。
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