研究課題/領域番号 |
15K03516
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
武内 真美子 九州大学, 男女共同参画推進室, 准教授 (80737742)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高等教育機関 / 研究職 / ワークライフバランス / 博士人材 / キャリア支援 / 国際比較 / 帯同雇用 |
研究実績の概要 |
2016年度の研究実績として、まず2015年度に所属機関において、研究者および大学院生を対象に実施した「研究者を対象としたワークライフ・バランス支援に向けての調査」および「大学院生を対象としたキャリア支援に向けての調査」の報告書をまとめた。統計的に明らかとなった主な結果は以下のとおりである。研究者を対象とした調査では第1に、育児・介護期においては、男性研究者と比較して女性研究者の研究の進捗がより低下する。第2に、育児期の支援として病児・病後児保育についての環境整備が最も求められている。第3に、研究者カップルの内、着任時に配偶者と別居を選択している者が男女ともに1割以上おり、その割合は女性研究者に多い。第4に、任期付きのポジションに属することは、将来のキャリアを考える上でも、業績の蓄積を考える上でも、精神的な負担となっていることである。次に大学院生を対象とした調査では第1に、博士後期課程に進学後の段階では男性より女性のほうが、進路選択として大学での研究職を希望している。第2に、博士前期課程の段階で半数以上の学生がなんらかの助成金・奨学金などの経済的支援を受けており、後期課程に進学しない理由として経済的な事情が一つの要因である。第3に、大学院生が望むキャリア支援として、学会発表等への経済的支援の割合が大きいことである。以上の調査結果の概要は学術誌に掲載された。 研究実績としては次に、アジアの主要都市の高学歴者を対象とした調査を基にキャリアの比較分析を行った。その結果、英語能力が高い、海外留学もしくは海外勤務の経験がある、理系の学位、修士以上の学位を取得しているなどの学歴(大学卒以上)以外の複数の追加的な技能の差が、高学歴者間の賃金格差に影響を与えているのは、男女ともに日本のみであることが明らかとなった。以上の調査結果については、複数の国際学会で報告を終えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者が所属する機関は九州地区における基幹大学であるという特徴を持ち、前年度学内で実施された調査結果については、誤差があっても概ね他の国立大学、地方大学等にも該当する項目があると考えられる。その意味では全学的なWEB調査の結果を報告書にまとめたことは、評価されるべきことと考えている。また、高学歴者間のキャリア形成に関する国際比較研究は国内では極めて少なく、新規性のある分析結果を提示できている。以上の研究成果については、複数の国際学会で報告を終えており、一部はProceedingsに掲載されている。さらに、補完的に行っている研究内容についても次年度に実施される国際学会にすでに採択されている。 今年度の研究実績から、本研究で課題としていた仮説の検証として、性別を問わず修士以上の学位の取得および理系の学位の取得は、卒業後のキャリアに正の効果が期待できることが実証できている。一方で、研究者のワークライフバランスについて、育児・介護期の研究の進捗に性差があることも明らかとなった。博士前期課程、後期課程ともに将来のキャリアについて不安を感じている割合は、女子学生のほうが大きい。その理由として、経済的状況とライフイベントとの両立が挙げられている。研究の質の向上のために、優秀な女子人材を確保するには、女子学生の研究職への進路選択に関わる不安を取り除き、高等教育機関だけでなく、企業の研究職という選択肢を女子大学院生の中に定着させることが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
WEB調査の報告書の内容については、より精緻な分析を行い専門誌への投稿を検討する。本課題の追加的研究として、海外の高等教育機関におけるデータを入手し分析することを検討している。さらに、国際比較研究については比較対象国を増やして研究成果をまとめる。中等教育の段階での進路選択の決定要因等についても引き続き検討していく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度中に採択された2つの国際学会(Womens Studies Conference, Gende Summit10)の開催が次年度5月であるため、旅費が繰り越された。また、高等教育機関における研究者に関わる研究のため、海外の機関へデータ申請をしたが、機関の属性と個票データのマッチングが結果的にできないという回答があったため、再度申請書を提出する予定となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越されている経費に関しては、すでに採択されている2件の国際学会(World Conference on Women's StudiesおよびGender Summit)にて研究成果を発表予定である。また、アメリカの機関へデータの申請を行う予定である。
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備考 |
上記の出版については、代表者が所属する機関によって公刊されている。
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