研究課題/領域番号 |
15K03523
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
野村 容康 獨協大学, 経済学部, 教授 (90383207)
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研究分担者 |
栗林 隆 千葉商科大学, 商経学部, 教授 (30306401)
山田 直夫 公益財団法人日本証券経済研究所(調査研究部及び大阪研究所), 調査研究部, 研究員(移行) (30638391)
望月 正光 関東学院大学, 経済学部, 教授 (40190962)
高松 慶裕 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (90454016)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 二元的所得税 / 最適所得税 / 労働所得税 / 資本所得税 / 人的資本 / ACE法人税 |
研究実績の概要 |
・まず規範的な最適所得税論の立場からは、賃金に関するリスクが存在する場合と人的資本投資を考慮した場合のモデルに注目し、労働所得税と資本所得税の関係について理論的に考察した。分析により、①賃金リスクがあり,労働供給行動がリスクの実現前に決定される場合は、労働所得税は家計間の労働供給と消費を同一にするような平等主義的な配分を実現するように設計されるべきであり、さらに複数消費財を考慮すると,事前にコミットされる財(住宅や耐久消費財等)は軽課されるべきこと、②労働所得税は人的資本投資からの収益を低下させて、当該投資に歪みを与えるが、資本所得税はそうした人的資本投資の機会費用を減少させることで、人的資本投資を促進する役割を果たしうること、などが明らかとなった。 ・他方、実証面において二元的所得税の経済効果を探る狙いから、フィンランドにおける2005年の配当課税の引上げが、同国の上場法人の実物投資にどのような影響を与えたかについて検証した。その結果、その投資水準に照らして資金制約のある企業では、そうでない企業に比べて、2005年の配当増税によって投資水準を減少させた可能性が明らかとなった。 ・二元的所得税体系の下での整合的な法人課税システムとして位置づけられるACE法人税に関しては、とりわけイタリアでの実施経験を踏まえて、同国の法人課税制度の動向、ACE法人税導入の背景、企業投資や資本構成への効果を検証した先行研究等について検討した。併せて、ACE法人税に関する実証分析のための準備作業としてイタリア企業の財務情報を入手し、関連するデータの整理・加工を行った。 ・関連して日本の法人税をACE法人税に転換した場合の効果について、上場企業の個票財務データに基づき検証したところ、ACE 導入は僅かながら企業の負債比率を低下させる一方で、設備投資率はACE 導入によって増加するという結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度同様、2016年度も合計7回の研究会を開催し、各研究者がそれぞれ分担する課題に沿って研究経過の報告を行うことができた。これにより、本研究の基本テーマである所得再分配機能の強化を実現可能とする所得課税システムの設計に向けて、個人資本所得課税に関して理論・実証面から一定の成果が得られるとともに、イタリア法人課税の実証分析のための準備作業もほぼ完了することができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
・引き続き規範的租税論の立場から、二元的所得税体系下での労働所得税と資本所得税の位置づけ、意義について検討を進める。とりわけ最適な労働所得課税を追究するため、労働生産性と労働不効用にショックのある動学的な就業選択モデルの下で、労働生産性や年齢に応じた参加税率がどのように設定されるかについて考察する。 ・現実の二元的所得税については、改めてフィンランドで同税制が1990年代初頭に導入されるに至った政治的、経済的な背景に関して整理・検討するとともに、その後の税制改革とマクロ経済・所得分配の変化との関係を検証する。 ・一方、望ましい法人課税のデザインを明らかにする観点から、イタリアにおけるACE法人税の導入が企業の資本構成ならびに実物投資に与えた影響について分析する。
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