本年度は,前年度までの研究成果を踏まえ,主として以下の2つの課題について取り組んだ。 第一は,医療・介護保険財政における公費負担の包括的把握である。医療・介護保険者間の財政調整と一部保険者の給付費等への公費負担が制度全体の費用負担構造を複雑化している。社会保険制度における費用負担のあり方として,少なくとも加入先に関わらず疾病・要介護リスクと負担能力が同等な被保険者の保険料は均一にするという水平的公平性を目指すことが望ましい。本年度は,過年度までに医療保険財政・介護保険財政について都道府県単位で構築してきた将来推計モデルを統合することで,公費負担の全体像を明らかにした。 第二は,介護費用の地域差を踏まえた,地域別介護保険財政の将来像についての考察である。前年度に行った介護費用の地域差の動向についての研究成果を踏まえ,それを取り込む形で地域別介護保険財政の将来推計モデルの構築に取り組んだ。介護サービス内容および介護費用についての地域差が観察されることに注目が高まりつつある中,医療費と同様に,介護費用の地域差の縮小に向けた取り組みが積極化しており,介護費用の地域差の現状を踏まえた上で,医療費の地域差縮小に向けた取り組みを参考に将来の介護費用の地域差の動向について様々な想定をおき,それが将来の地域別介護保険財政に及ぼす影響について考察した。 本年度は3年度にわたる研究活動の最終年度にあたるため,これまで構築してきた医療・介護保険財政についての地域別将来推計モデルの推計手法および主たる研究成果についてのドキュメントを作成し,研究成果の公表に向けた準備を整えたところである。 なお,関連研究を行っている研究者のもとを訪問し,研究成果についての情報提供および意見聴取のための旅費執行を当初予定していたが,日程調整がつかず電子メールでの意見交換にとどめたため不要となり,未使用金が生じた。
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