研究課題/領域番号 |
15K03532
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
玉田 桂子 福岡大学, 経済学部, 教授 (80389337)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミスマッチ / スキル / 賃金 / 仕事の満足度 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、スキルのミスマッチの指標についての検討、推定方法についての検討を行った。具体的には、スキルのミスマッチの指標については、先行研究において労働者自身による主観的な指標、分析対象となる労働者のスキルの平均値などを用いた指標、専門家による客観的な指標が提案されてきたが、これら3つの指標がどの程度異なっているのかについて明らかにした研究は少なかった。本研究では、平成27年度に労働者自身による主観的な指標、分析対象となる労働者のスキルの平均値などを用いた指標の作成を行ったが、平成28年度で専門家による客観的な指標を作成した。これら3種類のスキルのミスマッチの指標相互の相関係数を求ると、相関が弱いことが明らかになった。よって、どの指標を用いるのかについてはスキルのミスマッチに関わる分析を行う上で慎重であるべきことが明らかになった。さらに、3種類のスキルのミスマッチの指標を用いてスキルのミスマッチが賃金や労働者の仕事に対する満足度に与える影響を分析を行った。スキルのミスマッチの測定誤差が大きい可能性を考慮して、操作変数法を用いて推定を行った結果、どのようなスキルのミスマッチの指標を用いても、スキルのミスマッチは賃金や労働者の仕事に対する満足度には影響を与えていないことが示された。この推定結果は、スキルのミスマッチが賃金や労働者の仕事の満足度に影響を与えるとする先行研究の結果と異なるが、これは測定誤差の影響を考慮した結果、バイアスが取り除かれたためであると考えられ、新しい知見が得られたと考えられる。 これまで得られた研究の成果については、平成28年にWestern Economic Association Internationalの年次大会で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、平成27年度に作成した労働者の主観に基づくミスマッチの指標及び分析対象となる労働者のスキルの平均値などを用いたミスマッチの指標に加えて、専門家による客観的なスキルのミスマッチの指標を作成することが出来た。具体的には、OECDが実施したProgramme for the International Assessment of Adult Competencies(国際成人力調査、PIAAC)で得られた労働者のスキルの情報と、アメリカで作成された職業に必要なスキルの程度を示したO*netの情報を用いた。PIAACの情報とO*netの情報をマッチさせるに当たって、国際標準職業分類とO*netで得られた職業分類の(Standard Occupational Classification (SOC))を一致させる必要があったが、国際標準分類とSOCとの対照表を用いることでデータのマッチングに成功し、客観的な指標を作成することができた。さらに、3種類のスキルのミスマッチの指標を用いて、スキルのミスマッチが賃金や労働者の仕事に対する満足度に与える影響について推定を行うことができた。作成した3種類のスキルのミスマッチの指標の相関が弱かったため、いずれのスキルのミスマッチの指標にも測定誤差が含まれている可能性を考慮し、操作変数法を用いて推定を行った結果、どのスキルのミスマッチの指標を用いても賃金や労働者の仕事に対する満足度に影響を与えないことが示された。 また、Western Economic Association Internationalの年次大会で報告を行ったため、フィードバックを受けることが出来たため、そのフィードバックに基づいて理論モデルや推定方法の改善を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度までに行ってきた分析をさらに改善している予定である。平成28年度に行った学会報告では、サーチモデルの明示的な提示を行うべきという意見や、操作変数の妥当性などが指摘されたため、これらのフィードバックを論文に反映させ、理論モデルの改善と推定方法の改善を行う予定である。さらに、平成29年度もWestern Economic Association Internationalの年次大会で報告する予定である。この学会報告で得られたフィードバックをもとに分析方法などをさらに改善し、より精緻な分析を行う。 平成29年度は本研究課題の最終年度でもあるため、分析を完成させてワーキングペーパーで論文を発表し、英文の査読付きの雑誌にも投稿する予定である。
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