通貨代替型DSGEモデルを用いて、アジア諸国を対象に通貨代替の程度が各国経済、および金融政策に及ぼす影響について分析を行った。 通貨代替とは、国内居住者が支払手段としての貨幣として外国通貨を用いることであり、自国通貨に対する信認の低い開発途上国等において観察される現象である。 実証分析に用いる通貨代替の程度を表す指標として、先行研究の多くでは、国内居住者が現金として保有する外国通貨のデータが入手できないことから、自国通貨建て要求払い預金と外貨建て要求払い預金の合計に対する外貨建て要求払い預金の割合を代理的に採用している。このことは理論分析と実証分析における通貨代替の程度には一定の乖離が生じることを意味する。 それに対し、通貨代替型DSGEモデルをベイズ推定すれば、消費インデックスと貨幣インデックス間の代替の弾力性の逆数や自国通貨と外国通貨間の代替の弾力性、貨幣インデックスにおける外国通貨の保有ウェイトなどの各パラメータを直接的に計測でき、また、通貨代替の程度は貨幣インデックスにおける自国通貨のウェイトと自国通貨と外国通貨間の代替の弾力性で規定されるため、分析対象国の通貨代替の程度についても算出することも可能となる。 分析の結果、先行研究で用いられている代理的指標で測ると、分析対象国における通貨代替の程度は20%程度となるのに対し、上記の方法で測った場合には1~7%程度と低い値となり、外国の金融政策が各国経済に及ぼす影響は小さいことが明らかとなった。
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