研究課題/領域番号 |
15K03537
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
中村 恒 一橋大学, 大学院商学研究科, 准教授 (80418649)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 企業リスク管理 / 保険 / 保険リンク証券 / デリバティブ / 動学一般均衡分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、企業リスク管理をめぐり、金融市場において保険、デリバティブ、保険リンク証券がどのように共存しながらリスク分散機能を果たすのかを、動学一般均衡分析を用いて数理的に解明し、更に保険リンク証券の金融安定化効果に関して政策的な含意を導くことである。とくに、手法的には連続時間の確率解析を駆使し、非対称情報下での保険・保険リンク証券の価値評価方式を提示することが具体的な目的である。 平成27年度は、これまで研究代表者が獲得した科研費の研究を出発点とした。具体的には、『平成24-26年度・基盤研究(C)(一般)「非対称情報下での企業・金融機関のリスク管理の価値評価」(課題番号24530343)』では、連続時間において情報開示にコストがかかる状況で企業リスクの価値評価方式を構築した。そこでは、投資家も企業も代表的個人を仮定していた。しかし、保険や保険リンク証券をモデル化するためには、代表的個人モデルを複数企業モデルに発展させる必要がある。すなわち、複数企業が保険に加入する状況を想定し複数企業間での保険のリスクプーリング機能を分析すると同時に、資本市場のなかでのリスクヘッジ機能も分析して、保険と資本市場の間の構造的な関係を明らかにする必要がある。 しかし、これは、これまでの代表的個人モデルとは対照的に、数理的に簡単に解ける問題ではない。そこで、本研究ではその解決に取り組んでいる。とくにモデル構築の際の具体的な困難は、このような複雑な数理モデルにおいて、均衡解をどこまで明示的に解析解として特徴づけることができるか、である。現在、数理的に工夫をしながら研究成果を生み出している途中である。この過程で幾つかの論文を執筆しており、すでに一部発刊している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は平成18年度から平成25年度にかけて米国連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board of Governors、以下FRB)のリスク研究部署や国際通貨基金(以下IMF)の国際金融安定化部署に研究滞在・訪問してきた。本研究でも当初は、平成27年度に金融安定化の政策実務・研究の最先端を国際的に牽引するFRBやIMFに研究滞在し、金融安定化政策実務に関する現地調査を行う予定であった。しかし、これらの国際的な政府機関では政治動向が不確定であって、実際に平成27年度に入って以降に研究滞在受け入れ部署の仕事の繁忙度が高くなったことから、日程調整が不調に終わり、平成27年度中に研究滞在できなかった。その一方で、このような状況は、可能性の一つとしては予想していた。しかし、FRB、IMFの研究滞在は何物にも代えがたいほど貴重であることから、滞在部署と交渉し現地調査・研究滞在を平成28年度以降に繰越している。これ以外については、概ね計画通りに順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降は、平成27年度の成果を改善し、保険・保険リンク証券に関する動学一般均衡モデルを完成させる。さらに、モデルにシステミックリスクを導入する。具体的には、本研究では非対称情報を仮定するので、市場期待形成についてベイジアン更新を導入することにより、情報の非対称性に基づく伝染効果を分析し、更に本研究で開発する資産価格モデルを使って資産価格の伝染効果への影響も展望する。これは従来のリスク管理分析では数理ファイナンスでも保険経済学でも分析が困難であったエリアであり、独創性を有する。ただし、モデルの複雑さのため、確率解析の一層高度な数理的手法やコンピュータ技術が必要である。対応策として、東京大学大学院数理科学研究科、京都大学数理解析研究所、大阪大学基礎工学研究科などとの学術的な交流を通じて研究を改善する。このほか、高性能なコンピュータを購入し、数学や金融工学の大学院生を研究補助者として採用する。 この間、世界有数の米国大学(カリフォルニア工科大学、ジョンスホプキンス大学)への研究訪問により平成27年度の共同研究を継続する。国内外の国際学会で研究発表し論文を改善する。 最終的には、本研究モデルを使い金融安定化効果に関する政策的な含意を導出する。AIG破綻危機の経験から、研究者のなかには、金融破綻は保険産業以外で生じ、伝統的な保険産業は金融破綻の中心にはなかったとする意見もある。しかし、例えば保険産業の規制を強化しても保険リンク証券への規制逃れを促進し得る(逆は逆)など、いまや保険市場とデリバティブ・資本市場は強く連関しており、一つの金融サービスだけを独立に金融監督することは非効率である。本研究では、開発するモデルを用いて保険市場と資本市場の連関を考慮した金融監督規制のあり方を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は平成18年度から平成25年度にかけて米国連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board of Governors、以下FRB)のリスク研究部署や国際通貨基金(以下IMF)の国際金融安定化部署に研究滞在・訪問してきた。本研究でも当初は、平成27年度に金融安定化の政策実務・研究の最先端を国際的に牽引するFRBやIMFに研究滞在し、金融安定化政策実務に関する現地調査を行う予定であった。しかし、これらの国際的な政府機関では政治動向が不確定であって、実際に平成27年度に入って以降に研究滞在受け入れ部署の仕事の繁忙度が高くなったことから、日程調整が不調に終わり、平成27年度中に研究滞在できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
このような状況は、可能性の一つとしては予想していた。しかし、依然としてFRB、IMFの研究滞在は何物にも代えがたいほど貴重であることから、滞在部署と交渉し現地調査・研究滞在を平成28年度以降に繰越している。次年度使用額はこのための旅費として使用する予定である。
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