本研究の目的は、企業リスク管理に関して、保険、デリバティブ、保険リンク証券がどのように共存しながら金融市場全体において最適にリスク分散するのかを、動学一般均衡分析を用いて数理的に解明し、更に保険リンク証券の金融安定化効果に関して政策的な含意を導くことである. 保険は、保険会社が相対契約である保険契約を通じて保険加入者の個々のリスクをプーリングすることにより大数の法則に基づき保険加入者のリスク管理を代行する.それに対し、保険リンク証券は保険会社や企業自体が保険すべきリスクを保険会社・再保険会社を介せずに直接的に資金豊富な資本市場に移転する.このとき、保険と保険リンク証券、デリバティブが社会においてどのように最適に共存するのかについて、手法的には連続時間の確率解析の手法を駆使し、非対称情報下での保険・保険リンク証券・デリバティブの最適ポートフォリオ・価値評価方式を提示する点で実務的に役立ち、先行研究において存在してきた数理ファイナンスと保険経済学の間のギャップを埋める独創性を有する. 平成29年度は本研究プロジェクトの最終年度として平成28年度までの研究を完結させた.とくに、企業活動が、平時の連続ショックに加えて大きな災害ショックのような下方ジャンプショックに晒されている状況で、ミクロ的な企業のモラルハザード行動がマクロ的にその影響を増幅させ資産価格を大きく変動させる状況を数理的に解明した.さらに、この研究を発展させ、保険すべきリスクを証券化して資本市場にリスク移転する保険リンク証券を明示的に動学一般均衡モデルに導入して、保険・保険リンク証券・デリバティブの最適な組み合わせとその経済効率性について研究を推進した.
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