本課題の目的は、サーベイデータと市場(価格)データを用いてインフレ期待の変動メカニズムを明らかにし、その変動に起因するリスクプレミアムを推定することである。両データを統合的に記述できる経済モデルを提案し、それぞれのデータの長所を活かして精度の高い推定を試みるところに本課題の特色がある。 平成29年度は、平成28年度に構築した均衡モデルの中で、期待インフレ率が資産価格に影響を及ぼす経路を拡充した。従来の均衡モデルにおける主な経路は、期待インフレ率と消費成長率との相関であるが、実際のマクロ・データを用いた相関は高くないため、実証的な裏付けに乏しかった。そこで、上述の経路に加え、期待インフレ率がリスク回避度や主観的割引率といった選好パラメータに直接影響を及ぼす経路を確立した。この拡充により、投資家のインフレ期待やインフレ・リスクプレミアムが資産価格に反映されやすくなり、様々な資産価格データから高い精度で推定できるようになった。この成果は、平成28年度に作成した論文「An Equilibrium Model of Term Structures of Bonds and Equities」を改訂する形でまとめた。その他にも、消費や配当の変動過程にジャンプを導入したり、投資家のリスク回避度が現実的な範囲に収まるように工夫したりするなど、モデルやカリブレーションの精緻化を行った。学会やセミナーで計3件の報告を行い、得られたコメントも改訂版に反映させ、海外学術誌に投稿できる準備を整えた。
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