研究課題/領域番号 |
15K03542
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
野田 顕彦 京都産業大学, 経済学部, 准教授 (80610112)
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研究分担者 |
大豆生田 稔 東洋大学, 文学部, 教授 (20175251)
前田 廉孝 西南学院大学, 経済学部, 准教授 (90708398)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 計量ファイナンス / 日本経済史 / 市場効率性 / 市場統合 / 東京米穀商品取引所 / 大阪堂島米穀取引所 / 外米代用受渡 / 朝鮮米 |
研究実績の概要 |
まず,研究代表者である野田と連携研究者である伊藤は,本研究課題の分析を進めていくための時変計量経済モデルの統計的特性の確認を行った.具体的には,Ito, Noda and Wada (2014, Applied Economics) で提案された非ベイズ時変ベクトル自己回帰モデルを理論的に拡張した,非ベイズ時変ベクトル誤差修正モデルを用いて分析していくために必要な統計的検定手法について理論的検証を進めてきた.ここで,Ito, Noda and Wada (2014, Applied Economics) による一連の時変計量経済モデルを用いることで,パラメータの事前分布に依存することなく分析が可能になっただけではなく,頻度論統計学に基づいた既存の検定統計量が利用可能になることが改めて示された. 研究分担者である前田・大豆生田と連携研究者である井奥は,第1に時変計量経済モデルによる分析の結果を解釈するために必要な史料の調査・収集,第2に収集した史料に基づく経済史的考察を進めた.第1の史料調査・収集は,平成26年度まで継続的な調査を実施してきた農林水産省筑波産学連携センター(旧・農林水産省農林水産技術会議筑波事務所)所蔵農林省米穀局作成史料のほか,平成27年度は新たに農林水産省図書館所蔵農林省作成史料,郵政博物館資料センター逓信省作成史料,関西大学図書館所蔵大阪堂島米穀取引所作成史料を調査・収集した.第2の経済史的考察では,第1の点で述べた調査で収集した史料を用いることで,時変計量経済モデルによる分析から示された戦前期二大米穀市場(東京・大阪)間における統合のスピード上昇は,主に電報及び市内電話の利用拡大に起因していたことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時変計量経済モデルの統計的特性の確認を担当する野田と伊藤は,前項「研究実績の概要」に示した点についての検証を進めた.具体的には,Ito, Noda and Wada (2014, Applied Economics) で提案された非ベイズ時変ベクトル自己回帰モデルのケースと同様に非ベイズ時変ベクトル誤差修正モデルにおける誤差修正項のパラメータが時間を通じて変化しているかどうかを検証するためブートストラップ法を用いた検定統計量を開発してきた.ここで,誤差修正項に掛かる係数パラメータの時間を通じた変化を計測することによって,複数市場間の価格統合の進捗を明らかにすることができることが示された. 経済史的考察を担当する大豆生田・前田・井奥は,野田と伊藤により示された戦前期二大米穀市場(東京・大阪)間における統合のスピード変化について,一次史料を用いることで考察を加えた.これまでの市場史研究においても明治期以降の日本における電信導入が国内市場の統合を促進したことは示唆されてきた.しかしながら,一方で通信業史研究において電信利用は料金の改定に強く影響されたために単調な拡大は示さなかったことが指摘されてきたにも関わらず,実際における電信利用の動向と市場統合の経過を対比させた研究は皆無であった.こうした研究動向のなかで本研究は,電信料金政策の推移を視野に収めつつ,電信利用の拡大と市場統合の進展を対比させることで,戦前期日本における市場統合の過程が電信料金政策に強く規定されていたことを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
まず,研究代表者である野田と連携研究者である伊藤は,前項「現在までの達成度」にも示したように,昨年度に行った本研究課題における統計的検定手法の構築を踏まえ,研究分担者である大豆生田・前田および連携研究者である井奥が昨年度に作成した東京米穀取商品引所および大阪堂島米穀取引所の現物・先物市場における価格データを用いてより詳細な計量分析を行う.そして,大豆生田・前田・井奥を交えて複数市場間の価格統合の進捗について,ファイナンスならびに経済史の観点から解釈を行う.その上で,解釈の結果を論文としてまとめ,国内外の学会で報告したうえで,適切な海外の学術専門雑誌に投稿する予定である.なお,これまでの史料調査が順調に進展したことで,取引参加者の詳細な情報,取引実態を明らかにしうる史料の収集にも成功しつつある.しかし,一方でそれらの史料には膨大な個人情報が含まれることから,その取扱は慎重を期す必要がある.そこで,本年度より国立公文書館業務課利用審査係に所属する石崎亜美氏から適宜アドバイスを受け,国立公文書館の規則に準じた取扱をすることで個人情報の適切な保護に努めている.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,当初予定していた韓国における史料調査および研究セミナーを実施しなかったためである.これは,韓国における史料調査の前提作業となる日本国内での史料調査に当初の計画より時間を要しているためである.今後も国内史料調査の進展に注力すると共に研究協力者である金明洙氏(啓明大学校)の協力も仰ぎつつ,次年度以降における韓国での史料調査と研究セミナーの実施へ向けて尽力する予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
「理由」で先述したように,平成28年度以降において韓国で史料調査とセミナーを実施する予定である.その際には,史料調査の日程を当初の計画より長期間に設定する予定であり,野田は本年度生じた未使用額のうち約10万円を,前田は未使用額全額を,それぞれ充当する.その他に野田の未使用額残額は,約10万円を物品費,約5万円を論文投稿料に充当する.
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