研究課題/領域番号 |
15K03548
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
清水 順子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70377068)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 為替制度 / 為替リスク / オフショア市場 / 貿易建値 / 基軸通貨 / 決済通貨 / 人民元の国際化 / クリアリングバンク |
研究実績の概要 |
平成27年度は、特に人民元の国際的利用促進状況に焦点を当て、調査研究活動を行った。具体的には、以下2つの成果がある。 第1に、経済産業研究所の協力の下、中国社会科学院の協力研究者である孫傑教授らの研究グループと共催でワークショップを開催し、人民元の国際化に関する研究報告と意見交換を行った。 第2に、財務省外為審議会における調査研究に参加し、北京、上海、香港、およびバンコクにおける人民元の国際化と日本企業の貿易建値通貨選択に関するヒアリングを実施した。その結果、以下の点を確認した。①人民元の国際化は趨勢的に推進されていくことは確実である。とりわけ、人民元のSDR構成通貨への組み入れ等、人民元の国際化によって人民元の信頼性を高めることに努めている。一方、最近の人民元安圧力によって人民元の国際化が一時的に減速する可能性が高い。②人民元の国際化において、人民元決済あるいは人民元流動性供給が重要となる。現状においては、各オフショア市場における人民元クリアリング銀行による決済が先行しているが、中国政府が開発したCIPS(中国人民銀行と民間銀行による人民元クロスボーダー支払システム)による決済が同時並行的に進展する可能性がある。③中国の通貨当局は、世界全体の人民元オフショア市場の中でも、香港オフショア市場を特別に扱っており、香港オフショア市場が「人民元オフショア市場のハブ」なっている。香港オフショア市場には人民元クリアリング銀行(中国銀行)に加えて、香港通貨庁(HKMA)もその機能を補完している。④東京市場には、現在人民元のクリアリングバンクが設立されておらず、オフショア市場としては使い勝手が良いものではない。一部には香港人民元オフショア市場を利用できるという意見もあるが、大企業から中小企業までの多様な日系企業をカバーするためには、東京人民元オフショア市場における人民元クリアリング銀行の設置は必要であろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績に記述したように、平成27年度は財務省外為審議会における調査研究に参加したことにより、1年目にして人民元の国際化と日本企業の貿易建値通貨選択に関するヒアリング調査を効率的に実施することができた。出張費用も北京出張は科研費から支出したが、その他の出張については財務省からの支出で行うことができ、経費の節約ができた。これにより人民元の国際化に関する問題点を整理することができたのは大きな成果である。 さらに、中国にとって人民元の国際化=脱ドル依存である、という意見を中国研究者から確認できたこと、その意味において昨年12月に中国為替取引システム(CEFTS)から公表された人民元のバスケット指数は、将来的にバスケット通貨を参照としていくという政策的意図があるのではないかと推察できる。これは、アジアにおける将来望ましい為替制度を考える上で、ドルペッグからバスケットペッグに移行していくという過程が進み始めていることの現れであると考えることができる。本研究の究極的な課題である「現在のドル基軸体制から脱却し、アジア通貨を中心として貿易決済や貯蓄・投資が行われる通貨体制を築き上げるための政策協調とは何かを考える」点で重要な成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の進め方として、以下を考える。 1.平成27年度にやりのことしたことの一つに、リスク回避度が高まった市場における円のセーフヘイブンとしての役割がある。アジア諸国の日本国債への投資については国際収支統計(日本銀行)のデータを用いる。非居住者の日本国債取引については、日銀ネットの稼働時間が延長されることを活用しつつ、金融機関における資金・証券決済の高度化の取り組みについて精査する。また、アジアの中のセーフヘイブンとしての円の存在は、現時点では市場のリスク回避度が高まったときのみに限定されているが、リスクオフ時の一時的な避難通貨ではなく、外貨準備のポートフォリオの一つとして長期的に保有する準備通貨となるために今後必要な条件は何であるかについて、ユーロ以前の欧州市場でのドイツマルクの役割と比較・検討する。 2.平成27年度に中国を中心にヒアリング調査を行ったので、平成28年度は東南アジア各拠点の金融機関に対して貿易・資本取引の決済手段としてどの通貨が選好されているか、シンガポールの日系金融機関にインタビュー調査を行う。さらに平成27年度・28年度の研究成果に基づき中間報告を作成し、実務的側面からの研究成果についてはヒアリング調査を行った金融機関にフィードバックし、その妥当性について評価していただくことを予定している。 3.中間的な研究成果はWorking Paperとしてまとめ、ワークショップでの助言を得て改訂し、国内の学会(日本金融学会、日本経済学会、国際経済学会)や経済産業研究所(RIETI)や財務省総合研究所などの政府関連の研究会等で発表する。 4.最終年度は、得られた研究結果を踏まえた上で、円の新たな国際化に向けての政策提言のまとめと今後の問題点の検討を行う。最終研究成果については日本語の商業出版を企画するか、あるいは英文の査読付国際学術雑誌への投稿を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績に記述したように、平成27年度は財務省外為審議会における調査研究に参加したことにより、当初予定していたアジア方面でのヒアリング出張費用について、北京出張のみは科研費から支出したが、その他の香港上海出張とバンコク出張については財務省からの支出で行うことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度予定しているシンガポール出張と海外学会での報告、および研究成果をまとめた論文投稿の英文校正費として使用する予定である。
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