研究課題/領域番号 |
15K03549
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
和田 賢治 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (30317325)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量的金融緩和政策 / 債券価格 / 債券保有期間収益率 / GDP / インフレーション / 国債 / 金融政策ショック / TFPショック |
研究実績の概要 |
当研究では、量的金融緩和政策の債券価格及び保有期間収益率への影響を考察する事が目的である。そのため初年度は以下の作業を行った。 まず第一に、日本銀行金融研究所のディスカッションペーパーであるKikuchi and Shintani(2012)が推計した公表データに基づき、日本国債(残存期間は0.5年から半年刻みで20年までで、標本期間は1999年1月4日から2011年12月30日まで)の各債券の日次データのゼロクーポンイールドから、四半期毎の各債券の価格を導出し、その四半期毎の各債券の価格から四半期毎の各債券の保有期間収益率を計算した。そして四半期毎の各債券の保有期間収益率の統計的性質(平均、分散、歪度、尖度、自己相関等)の検討を行った。 第二に四半期毎の、政策金利(翌日物無担保コールレート)、名目GDP確定値(季節調整なし、HPフィルター済み),マネーストック変化率(マネーサプライ統計とマネーストック統計におけるM3を日本銀行ホームページ上の方法で接続)、名目政府最終支出確定値(季節調整なし、HPフィルター済み)を求めそれらの統計的性質を検討した。 第三に、Bhattarai et al.(2014)における異なる満期を持った債券の理論モデル化を参考にし、Gali(2015)の第三章のような標準的なニューケインジアンモデルに、満期の異なる債券を組み込んだ理論モデルを作成した。具体的には長期利付き国債を、割引ファクターつきのコンソル債として理論モデル化した。 第四に、TFPショック並びに金融政策ショック(金利ショック)をモデル化し、負のTFPショック及び負の金融政策ショックの、上記第一であげた変数、具体的にはGDPやインフレーション、政策金利、債券価格、債券保有期間収益率への影響を、標準的なパラメーターの仮定の下でDynareを使用して検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、教育投資の効果を明示的に考察し内生的成長論の枠組みで量的緩和の実態経済への影響を分析するBasu(2014)のモデルを出発点とする予定であった。そしてBasu(2014)に、利付き国債のモデルを加える予定であった。具体的には、Barr et al.(2012)を参考に、割引国債から初めて満期の異なる割引国債の和として利付き国債をモデル化する予定であった。 しかしBasu(2014)のモデルはすでに複雑なモデルであり、このモデルにさらに上記の方法で債券をモデル化すると、モデルが複雑化しすぎ、かつ理論的にも問題がでる可能性があった。具体的には、Barr et al.(2012)の確率的割引因子モデルを用いたモデルでは、効用関数の形状及びショックの分布の関数系の仮定より、満期の異なる割引国債の和として利付き国債をモデル化することに理論的問題はなかったが、動的確率的一般均衡モデルにおいてはそのようなモデル化を行う事は困難であった。 その為、動的確率的一般均衡モデルではなく、Barr et al.(2012)とは異なった確率的割引因子モデルで同様の割引債のモデル化を目指したが、非常に限定的な効用関数及びショックの分布を用いない限り、モデル化が難しかった。そのため、Gali(2015)の第三章の、一般的ではあるが基礎的な動的確率的一般均衡モデルに立ち戻った。また債券価格についても、割引債から利付債とモデル化するのではなく、Bhattarai et al.(2014)の異なる満期の債券の理論モデルを参考にして、コンソル債を導入した。このように当初は非常に複雑なモデルにおいて非常に厳密な債券モデル化を目指したためやや進捗状況が遅れたが、その後基礎的なモデルに立ち戻る事によって、この研究の基礎となる理論モデルの構築ができた。そしてDynareによってそのモデルの分析を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
まず第一に、Gali(2015)の第三章の一般的ではあるが基礎的な動的確率的一般均衡モデルに、Bhattarai et al.(2014)のコンソル債を導入したモデルを用いて、日本の量的緩和金融政策の国債価格及び保有期間収益への影響の分析をより詳細に行う。その際Dynare及びEviewsを使用する。そして作成したデータとDynareから得られたデータの統計的性質を比較する。 第二に、同様のモデルを用いて、米国の量的緩和金融政策の国債価格及び保有期間収益への影響の分析をより詳細に行う。その際、債券の満期パラメーターの違いに対する影響に注目する。研究代表者である和田はデータ収集、データ整形、ファイナンスの観点からの実証研究部分を担当する。連携研究者であるBasuは理論構築とマクロの観点からの実証研究部分を担当する。 第三に、現在の日本国債の公表データは2011年度までのため、2012-2015年度のデータを購入し、そのデータからKikuchi and Shintani(2012)の手法を用いて、ゼロクーポン債のイールドを推計する。その後その推計されたイールドから債券価格および保有期間収益率を求め、日本のデータを用いた実証研究の期間を最近までアップデートする。 第四に、基礎的結果が得られた後は、日本の大学のワークショップ(東京大学、横浜国立大学、一橋大学、慶應義塾大学等研究代表者が過去に発表した大学を想定している)、日本の学会、海外の大学のワークショップ(University of Wisconsin, Seoul National University, Korea University, Singapore National University等研究代表者が過去に発表した大学を想定している)、海外の学会の順に発表を行う。そして最終的には海外の学術雑誌への投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2596円次年度使用額が生じたが、当初購入予定していた書籍を図書館の蔵書を借りて使用したため。
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次年度使用額の使用計画 |
第一に連携研究者であるBasu教授を7月中旬に招き、集中して理論および実証面の打ち合わせを行うための旅費にあてる。第二に、研究代表者が毎年招待されているNBER Summer Instituteに参加し、計量分野の発表を聴講し、マクロ経済学、計量経済学の研究者と意見交換をするための旅費にあてる。第三に、動的確率的一般均衡モデルの分析に使用するためのソフトウェアーを購入する。第四に、動的確率的一般均衡モデルの分析に関連する図書を購入する。
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