本研究は、配当と自社株買戻が不完全代替であり、しばしば企業によって併用される現象に関して、従来とは異なるアプローチで理論的根拠を与えようと試みる研究である。昨年春に提出した研究実施状況報告書(平成28年度、F-7-1)でも記したとおり、2本の論文に分けて成果をまとめたほうが論点を明快にできると考えた経緯がある。 前半部分は、企業がなぜ配当を支払うのかを説明するものである。投資家の異時点間消費選択と取引費用がカギであるため、2時点(現在と消費)のモデルである。これは著書(2017年10月)の第3章および第4章に収録した。それとは別に、内容的に近いものを英語のワーキングペーパー(2017年2月)として書き上げ、海外の雑誌に投稿した(2017年5月)。しかし、審査によって却下されたため(2017年6月)、それ以降はモデルの改良に努めている状況である。 後半部分は、前半部分を前提として、どのような状況下で自社株買戻を組み合わせることが合理的であるかを説明するものである。自社株買戻のコミットメント効果が配当よりも弱いことを原因として取引費用が高まることがカギであり、1時点のモデルである。この内容を説明するために2時点のモデルである必然性はないというのが初期の構想からの見直しである。しかし、著書(2017年10月)の第5章には、全体との整合性を重視して、2時点のモデルを収録した。それとは別に、1期間モデルを研究会で報告したところ(2018年1月、同志社大学経済学会研究会)、参加者から数多くの有益なコメントが得られ、大幅な改訂が望ましいと判断した。現在、共同研究者が1名加わって改良を重ねている段階である。
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