研究課題/領域番号 |
15K03560
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
久保 克行 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (20323892)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コーポレートガバナンス / ステークホルダー / 雇用 / 賃金 / 配当 / 働き方 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的はステークホルダー型コーポレート・ガバナンスと経営者のインセンティブについて総合的に分析することである。日本企業は伝統的に従業員をはじめとするステークホルダーを重視する経営を行ってきたと考えられている。過去に行われてきたインタビューや調査票に基づく研究ではこのことが示されてきた。一方で、グローバル化の影響や金融市場の改革の結果、これらの経営が変化していると考えられることもある。外国人持株比率の増加、いわゆる投資ファンドの活動の活発化などに加えて資本市場において多くの改革が行われてきている。特にコーポレート・ガバナンスコードの導入に伴い、多くの企業が社外取締役を導入したことは企業の行動に大きな影響を与える可能性があると考えられる。 これまで行った研究の概要は以下の通りである。まず、企業の業績が悪化した際にどのような行動をとるかについて注目して分析を行っている。業績が悪化した企業は雇用や配当を削減すると考えられる。その際に、配当を守るために雇用を削減するのか、雇用を守るために配当を削減するのかという意志決定に直面する可能性がある。この時、どのような企業が配当を削減し、どのような企業が雇用を削減するのかということについて実証分析を行っている。この時にコーポレートガバナンス が影響するのではないかという問題意識のもとで分析を行っている。 また金融市場からのプレッシャーが強くなるに伴って、雇用関係にも変化が起きる可能性がある。そこで、雇用の質 (decent work)に注目した研究も行っている。いわゆるワークライフバランスに配慮した働き方や、雇用の多様性を重視した経営、人権に配慮した経営を行ったのはどのような企業なのかという点について着目した分析も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、これまでに収集したデータをもとにした分析を進める一方で、新たなデータの収集も継続している。中心になるのは日本企業の財務データおよびコーポレートガバナンス変数を含むデータである。財務データについては日本政策投資銀行の企業財務データを中心に情報を収集し、必要に応じてその他のデータベースを参照している。 本研究では、コーポレート・ガバナンスに関する変数が重要となる。その一つの中心が取締役会および監査役会の構成に関する情報である。コーポレート・ガバナンスコードの導入もあり、多くの企業で取締役会の構成が変化している。この変化の背景および影響について分析することは重要である。コーポレート・ガバナンスに関する変数は日経NEEDS コーポレートガバナンス 評価システム(NEEDS-CGES)を参照している。コーポレート・ガバナンス変数としては、日経NEEDSコーポレート・ガバナンス評価システムに加え、東洋経済の役員四季報データベースも用いている。東洋経済の役員四季報データベースを用いることにより、どの企業でどのタイミングで社外取締役が増加しているのか、取締役会に金融に関する専門的な知識を持つ役員がいるか、という情報を入手することができる。 さらに、経営者の報酬に関するデータも収集する。2010年より1億円を超える報酬については企業が個別開示を行うようになった。これらのデータを収集し、コーポレート・ガバナンス変数や企業の財務データと接続する。これらのデータベースを用いて分析を進めている。 ここまでに行った研究をまとめた論文がAsia Pacific Journal of Human Resourcesにされたことからも順調に進展していると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでと同様、データを収集し、分析する。また分析した結果をもとにワーキングペーパーを作成し、学会で発表する。今までに作成したデータをもとにいくつかの分析を継続して行う。具体的には、以下の通りである。 1)業績が悪化した場合に企業が雇用を削減するのか、配当を削減するのかという点に着目した分析を継続して行う。日本企業はもともと従業員の利害を重視した経営を行ってきたと考えられてきた。このような経営を行っているのであれば、業績が悪化した際にも雇用の削減を行わないようにするはずである。しかしながら、金融市場の変化などにより、企業が株主利益を重視するようになり、このような行動が変化する可能性がある。変化が観察できるかどうか、またどのような企業で変化が起きているかに着目して分析を行う。 2)経営者のインセンティブについて、どのような変化が起きているかどうかに着目した分析を行う。経営者のインセンティブについては、必要とするデータの収集が難しいが、2010年以降は情報開示が進んできている。これらのデータをもとに分析を行う。企業の行動の変化に伴い、経営者のインセンティブの変化が起きているかどうかに着目する。 1)に関しては、すでに分析を行ってきている。これらの分析について、頑健性のチェック、内生性を考慮した分析などを行い、結果の信頼性を高める。内生性のチェックのためには操作変数法やpropensity score matching などの手法を用いる予定である。2)に関してはデータの整備および分析を続ける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:共同研究を行っている研究者を訪問予定であったが、共同研究者が日本に来ることになり、海外出張を延期することができた。 使用計画:海外出張の予定である。
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