研究実績の概要 |
本研究では、コーポレートガバナンスと企業行動、業績の関係に注目している。特に株主だけではなく、それ以外のステークホルダーとの関係にも注目している。 本研究では、まず日本企業の雇用関係についてどのような変化があるのかについて基礎的な分析を行った。特に、伝統的な日本の特徴とされる長期雇用や年功的な賃金体系がどのように変化しているのか、もしくは変化していないのか、ということに注目した。この結果については Fang Lee Cooke, Katsuyuki Kubo and Byoung-Hoon Lee (2018) 、Katsuyuki Kubo (2019) にまとめられている。 次に、コーポレートガバナンスがディーセントワークに与える影響を実証的に分析した(Kubo, 2018)。ディーセントワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」のことである。この概念はもともと1999年にILOによって提唱されており、現在の日本の働き方改革とも密接に関係する。一般に株主価値を重視することと従業員の利害を重視することは両立しないと考えられている。しかし、この研究では例えば外国人持株比率が高い企業でディーセントワークのスコアが高いことが示されている。このことは、株主価値の重視と従業員の利害が必ずしも矛盾しないことが示されている。 さらに、取締役会における専門家の役割について分析した。具体的には弁護士・公認会計士が取締役として在籍する企業の業績、リスクテイクについて分析した(Sako and Kubo, 2019)。一般に弁護士や公認会計士がいる取締役会はリスクを避ける傾向にあると考えられることが多いが、実際にはリスクテイクのための戦略的な助言を行う機能があるのではないかという問題意識に基づくものである。
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