研究課題/領域番号 |
15K03567
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (00151514)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 石油製品 / 重油 / ガソリン / 給油所 / アメリカ / イギリス / ジョバー / 流通支配 |
研究実績の概要 |
平成28年度の課題は,1980年代初頭以降のエクソン社による本国アメリカ,および諸外国での石油製品の生産と販売,およびこれに基づく市場支配体制の解明であった。但し,28年度は,この課題対象時期に先立つ1970年代,特に「第1次石油危機」(1973年)以降から考察を始めた。なお,外国についてはイギリスに検討対象を限定した。 第1に,1970年代初頭時点でのアメリカおよびイギリスにおけるエクソン社の最大販売品目は重油であったが,70年代末までには自動車用ガソリンが最大となった。ガソリン,ディーゼル油などの軽質製品が市場の主要部分を構成したのである。 第2に,エクソン社の製品販売体制に見られた大きな変化・特徴は,既存の流通支配体制を再編成したことであった。同社は,同社のガソリンなどを販売した系列の給油所のうち,販売量の相対的に低位な店舗については,これとの取引関係を打ち切った。アメリカでは,1973年にエクソン社の商標(ブランド)を掲げた給油所は 2万7665店存在したが,83年には2万119店へ減少した。同様にイギリスでも,1970年末に擁した8106店の給油所は,1979年1月初頭には5725店となった。これに加えて,エクソン社は,アメリカでは採算面の乏しい市場(州・地域)からの撤退を図った。同社は,1970年にほぼ全国を網羅する47州で製品を販売したが,80年には活動州は44州となり,85年には37州となったのである。 第3に,エクソン社は,他方では,外部の流通業者,製品卸売業者の活用を図った。特にアメリカでは,これらはジョバーと呼ばれる業者である。ジョバーは,エクソン社からガソリンなどを購入し,これらをエクソン社のブランドをつけて,各地の給油所等に販売する役割を果たした。エクソン社は,販売量の少ない給油所,自らは撤退した州や地域での販売を,これらジョバーに委ねたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ連邦議会の公聴会記録,イギリスの国立公文書館所蔵資料の入手,およびこれらの分析に大きな進展が見られた。特に,イギリスの公文書館資料には,1980年代初頭までの,エクソン社,および同社の競合企業であるロイアル・ダッチ・シェル社,BP社の,イギリス国内での製品販売の実態,製品流通機構の再編についての詳細な記述が見られた。これらは,文書館以外では入手できない資料であり,エクソン社のイギリス石油製品市場での支配体制,他社との競合についての重要な事実が含まれた。前者の,アメリカ連邦議会での公聴会記録に含まれた石油大企業群,およびジョバーなどの流通企業の証言は,70年代に変貌しつつあるアメリカ石油製品市場の実態の多くを知らしめる好個の素材を提供した。 以上の資料の検討により,本年度の課題の遂行は,ほぼ順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,第1に,28年度の課題であった製品流通体制の考察をさらに掘り下げる。その論点の1つは,アメリカ,イギリスなどで外部の流通業者(イギリスでは特約配給業者と呼ばれる)への依存を高めたことは,この時代の重要な事実であるが,これがエクソン社の市場支配にとって,果たしてどれほどの意義を有したかは,なお検討を要する課題である。1980年代半ば頃になると,アメリカでは,エクソン社などの大企業がジョバーなどに販売したガソリン等については,それぞれの大企業のブランドを冠することは少なくなったようである。ジョバーなどは,しばしば自らのブランド(プライベイト・ブランド:PB)をつけて販売したと言われている。こうした事実は,それまでのエクソン社の市場支配を崩す一面を持ったように思われる。他方,イギリスでは,そうした変化は少なかったようである。これらの事実をさらに掘り下げ,両国におけるエクソン社による市場支配の実態を明確にすることが課題となる。 第2は,1970年代半ば頃から急進展した事業の多角化の解明である。エクソン社は,他の石油大企業と同様に,新たな分野である鉱山業(石炭,ウラニウム,銅など),電子製品の製造業,不動産業といった諸事業に進出する。これらは,しかし,1980年代半ば頃までには,その大半が整理・処分の対象となる。これらの事業の取り組みとその帰結の解明は,1980年代末頃までのエクソン社の活動を論ずる上での不可欠の要件である。 第3に,27年度に行った原油と天然ガス事業の分析,28年度の製品販売事業の考察,これに上記の29年度の諸課題の遂行を加えて,1980年代末頃までのエクソン社の活動の全体像を探り,これを通じて世界の石油産業の構造転換の重要な一断面を探ることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定した旅費の支出が少なかったことが主たる要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
770円の残額であり,平成29年度の旅費ないし物品費に組み込む予定である。
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