最終年度の課題は,アメリカ,イギリスにおけるエクソン社の1980年代初頭以降の製品販売活動と市場支配の実態を解明することであった。主要な成果は,同社が,先立つ1970年代には,両国のいずれにおいても市場支配力の若干の低下を免れなかったが,この時代には,失われた地歩を回復する,のみならず新たな優位を創出しえたこと,およびこれを可能にした根拠を解明したことである。特に,主要品目のガソリン市場では,イギリスでは首位をキープし,アメリカでも順位をあげ,第3位を堅持したのであった。 研究期間全体の平成27-29年度では,1980年代初頭以降のエクソン社による原油と天然ガスの生産事業とその到達点,製造業,鉱山業(銅,石炭,ウラニウム,その他),太陽光発電などへの事業の多角化とその帰結,80年代半ば以降の組織改革の実態とその成果,および上記の製品販売市場における活動,これらを解明し,この時代のエクソン社の活動の全体像を明らかにすることを課題とした。同社は,この時代も世界石油産業界において最大企業の地位を維持した。アメリカのアラスカ州,ヨーロッパの北海に擁した新興油田(北海の場合は天然ガス田を含む)の生産が,この時代に本格化したことは,これを可能にした1つの重要な要因であった。他方,70年代半ば以降に急進展した多角化事業は,80年代半ばまでにその多くが清算・処分された。組織改革は,21世紀初頭には,モービル社の買収(エクソンモービル社の成立)後にグローバル事業部制への移行として結果を出すが,そこに至る過程では多くの試行錯誤を伴い,事業活動全体の強化を容易にはもたらさなかった。 本研究によって,これまで未解明の部分が多かったエクソン社の活動の全体像がほぼ描き出されたこと,これを通じて今日の世界の石油産業の形成過程の重要な諸側面が解明されたことは大きな成果であった。
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