研究課題/領域番号 |
15K03569
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
粕谷 誠 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40211841)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 両替商 / 為替方 / 銀行 |
研究実績の概要 |
江戸時代における両替商と明治以降の銀行・証券業者といった金融業者との間にどのような連続性と断絶性があるのか,という研究課題に対して,平成27年度は以下のような研究を行った。 まず江戸時代における両替商の存在形態を明らかにすることをめざして,彼らをデータベース化していった。そのうえでその一部を利用する中で,江戸時代の両替商が銀行に転換できた三井家と住友家のケースを取り上げ,江戸時代から今日に至るまでの発展を経営史的に解明する論文を執筆した。三井家・住友家ともに19世紀に入ると両替経営が不振となっていたことは明らかになっていたが,明治以降の三井銀行・住友銀行につながる活動は,幕末もしくは明治初期に始まった公金取扱(三井家)と商品担保貸付(住友家)であり,両銀行とも近代的教育機関出身者を採用してから急発展したものであり,江戸時代の両替経営がそのまま継続したわけではないことを強調すべきことがあらためて明確になった。この論文は現在,印刷に回されている。 また三井家の明治初年の政府公金取扱状況を検討してみると,なんといっても三井・小野・島田の為替方三家が有名である。小野組は京都・江戸・盛岡に地盤があり,奥州と上方との商品交易にも従事していたし,島田組は江戸・京都・大阪で呉服業を営んでいた。このように為替方三家は,いずれも京都に地盤があり,三井を除けば大阪に強い両替業としての地盤があったわけではなく,他の幕府為替方も同様であった。従って江戸時代の大阪両替商の発展と幕府為替方を直結することは,危険であることも明らかとなった。この点については,小論を執筆した。 最後に明治以降に銀行に進出した三菱銀行について検討を進め,三菱銀行が金融逼迫時には大胆に日本銀行に依存しつつ,取引先との関係を維持していたことを実証的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度では,大阪での両替商について調査することを目標としていたが,大阪での両替商のデータベース化は順調に進展しており,それをもとにした研究成果が出つつある。また江戸時代と明治時代を結ぶと考えられている為替方の検討も進んでいる。最後に明治期に入って創業した大銀行の三菱銀行の検討も始まっている。 以上のことから,おおむね計画通りに進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まず引き続き大阪でのデータベースを充実していくことが必要であり,これを行うこととする。 つづいて,江戸での両替商の存在形態を明らかにする必要がある。江戸では本両替が10人未満しかおらず,幕府の公金為替を担った為替方も三井家を除けば,銭両替に過ぎなかった。江戸においては,銀貨はほとんど流通せず,銭が少額取引に用いられていたから,金銀両替を目的とする本両替は少なくて済んだのかも知れないが,上方との為替は,銀貨と金貨の相場を扱うものであったから,銀貨との関わりなしにおこなえたとは考えられない。あるいは秤量銀貨は19世紀にはほとんど回収され,大阪でも手形の単位として用いられ,現金をやりとりする場合には,相場に応じて金貨で決済されていたから,銭両替でも計算単位に過ぎない銀貨は取り扱うことが出来たのかも知れない。こうした江戸両替商について,検討を進めることとする。 最後に,明治以降について発展した銀行の代表として,三菱銀行を取り上げ,仙山期における発展を,合併や人事政策について明らかにすることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費,人件費については,計画通りの執行を行ったが,事前に見込んでいなかったWorld Economic History Congressへの参加費を支出した結果,調達を予定していたパソコンの購入が行えない結果となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度において,予定していたパソコンの購入をおこない,使用する計画である。
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