平成28年度は、通常の資料調査に加えて、陶磁器産業振興協会および陶磁器センター所蔵の資料リスト(手書き)を謝金業務によりすべて入力し、関係研究者および関係機関に配布した。また、論文として「戦後北米向け陶磁器輸出における輸出カルテルの実態-1954年のバンブーチャイナ問題を事例として-(補筆版)」を作成した。ただし本稿は現時点では未公開である。本稿では、従来拙稿において公表済みのバンブーチャイナ問題の経緯に加えて、同問題を理解する前提となる1950年代における陶磁器産業の概観と陶磁器輸出の意義についてあらかじめ考察している。そもそも輸出力が不足し、国際収支の天井に悩まされていた当該期における陶磁器輸出は、輸出総額の2~3%を占めていただけではなく、原材料のほとんどが国産であることから外貨手取り率が高く、政策的にも陶磁器産業は重点産業であった。さらに陶磁器輸出においては、北米と東南アジアが2大輸出地域であり、北米には日本陶器をはじめとする少数国内大企業グループが生産する「白素地」ディナーウェアが輸出され、東南アジア地域には美濃や瀬戸に多数存在した中小企業=「窯屋」が生産する「並素地」食器が輸出された。いわば「市場の分割=棲み分け」が事実上成立していた。これを崩す動きには猛烈な軋轢が生ずることになる。これがバンブーチャイナ問題の背景にあり、今回の補筆により、いっそうこの点が明確になった。また、市場の棲み分けが国際的にも成立していたことに関しても実証的に明らかにしている。
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