切削・研磨、鍛造などと並んで重要な金属加工技術の一つである溶接、切断技術の約1世紀にわたる展開過程を経営史的・技術史的に考察するために、(1)酸素工業、(2)溶接棒、(3)溶接機材・溶断器材、(4)溶接材料商社の4つの研究対象に関する基礎資料・文献の収集を行い、戦後から現在に至る経営資料を重点的に調査した。 こうした調査・分析をもとにして『見えない産業-酸素が支えた日本の工業化-』(単著、名古屋大学出版会、2017年)を刊行した。本書は序章「『見えない産業』の形成と発展」、第1章「酸素工業の黎明」、第2章「大阪酸素工業界の構造変化」、第3章「経済統制下の必死の対応」、第4章「外資系企業の『日本化』過程」、第5章「ガス溶接・切断機企業の展開」、第6章「電気溶接機企業の展開」、第7章「液酸とオンサイトプラントの時代」、第8章「電気溶接機工業」、第9章「戦後日本の溶接材料商社」、第10章「産業ガス産業への変容」、終章「酸素・溶接機工業の100年」から構成され、約100年にわたる酸素工業、ガス・電気溶接機、溶接材料、溶接商社の変遷を考察した。 その結果、酸素工業がコモディティ産業化し、新たな高付加価値商品の提供が必要になったとき、さまざまな可能性を持ったプラントエンジニアリング能力が大きな競争力源泉となったことが明らかとなった。また産業ガス産業には新たな需要を開拓しているマーケティング能力、およびエレクトロニクス産業をはじめとするさまざまな産業からの厳しい要請に対応できる能力が必要であることも明らかになった。
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