本研究は中世末期から近代初頭(15~17 世紀)のヨーロッパ社会経済の特徴を中心地域であった低地地方を軸に欧州統合史の枠組みで再検討することを目的として、近年の研究により明らかにされてきた低地地方における中世からの連続的発展および、16 世紀ヨーロッパにみられる国家、地域の補完関係、言語・文化的多様性と経済的・政治的共通性の並存という現在のEUのあり方に通じる特徴に注目して、中世末期から近代初頭(15~17世紀)における低地地方の中心地としての機能と構造の変化の分析を軸に研究をすすめた。財による差異については、流通のあり方において特徴的な違いをみせる穀物、熱帯産品、毛織物、美術品の4種の財について、15~17 世紀のそれぞれの時代の中心であるブルッヘ、アントウェルペン、アムステルダムとパリなど他のヨーロッパ諸都市との関係を取引記録、価格などの資料をもとに財と情報の集積と分散における空間的 差異と時間的ラグの影響を含めて分析をすすめている。最終年度の平成29年には、研究協力者のいるパリ第2大学(パンテオン・アサス)を拠点としてパリの美術品市場ならびに美術館についての調査を行い、帰国後、アントウェルペン、アムステルダム、パリにおける美術品市場のあり方ならびに美術品の価格決定メカニズムについての論文を作成するとともに、ネーデルラント内における穀物価格等にみられる中心的都市と周辺の中小都市の間の価格動向の差異、価格決定メカニズムが異なる多元的流通構造を有する穀物と単一的流通構造をもつ特産財などの他の財の諸財および貨幣、情報の集積と分散における時間的ラグの影響についても、日本語での論文2本、英語での図書(Springerより出版予定)を作成している。これらの研究成果は最終年度である平成29年には刊行する予定であったが、諸般の状況により完成が遅れてしまった。
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