本研究課題は、両大戦間期に見られた「株主の法人化」現象について、その時期・経路・背景を詳細に分析する作業を通じて、戦前・戦時・戦後における企業システムの変容プロセスに関する通説に対して、一定の修正を加え、新たな歴史観を提示することを課題としている。 研究期間4年間のうち最終年度にあたる平成30年度は、基礎作業(株主構成と株式市場に関する資料の収集とデータ整理作業、など)をある程度重視する段階を終え、具体的な分析を進め、成果をまとめて公表することを重視した。研究成果のうち、株式所有構造の変化に影響を与える資金調達方法に関する分析として、本研究課題の初年度以降取り組んできた「変態増資」に関する研究を発展させ、株式分割払込制度を前提とした「変態増資」と株式時価発行の関係について検討した論文を公表した。一方、同じく株式所有構造の変化との関係で重要になる、株式分割払込制度と株価の関係を検証する研究については、暫定的な成果を英語論文にまとめ、2018年9月にフランクフルト(ドイツ)で開催されたGUG/BHSJ Joint Conferenceにおいて報告した(報告論文については、同コンファレンスで寄せられたコメントを踏まえて改稿作業中)。この報告を行った際、フロアからの関心は予想以上に高く、イギリス、ドイツにも日本の株式分割払込制度と同様の制度が存在したが、やはり株価との関係については十分に解明されていないとのコメントを得た。現段階では国際比較を行うだけの準備は整っていないが、本研究課題終了後の方向性として、国際比較の準備を整えることを目指したい。また、戦間期における特定の産業に着目してその企業金融を検討する作業の一環として、当時の代表的な産業の1つであった製糖業の企業金融を具体的に検証する複数の論文を公表した。
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