研究課題
初年度は研究史整理を行い、それと並行して収集した史料の分析を進めた。まず、IMFの史料を中心に、イタリアの戦後復興から1950年代の経済成長期の投資計画の実施について検証した。ブレトンウッズ体制の固定相場制のもとで加盟国は国際収支の均衡と通貨の安定を遵守することが求められ、イタリアの金融・通貨当局もまた、1960年まで通貨安定=インフレ抑制・財政赤字削減を最優先課題とした。一方で、イタリアにとって失業問題は最大の政策課題であり、1952年から、雇用創出と遅れた南部の生活改善のための投資計画に着手した。そのために輸入が増加し国際収支赤字が悪化すると、IMFはイタリア当局に投資額の縮減を求めたが、この勧告に対しイタリアは財政赤字拡大によってでなく公社債市場や外資導入でファイナンスする方針を選択したことを明らかにした。1951年から1960年までの間にイタリアは世界銀行から7次にわたる借款を受け、1950年に設立された南部開発金庫が世銀借款の受け皿となって、インフラ投資の再開と南部工業化に貢献した。世界銀行、イタリア銀行、南部開発金庫等の史料から、イタリア当局と世界銀行との借款交渉の内容や世銀における開発金融をめぐる議論(融資か保証か)の検出を進めることで、ブレトンウッズ体制の下で加盟国の経済政策運営がどのような影響を受け、経済成長が実現したのかの解明につなげる。第二に、イタリアの経済成長を支えたエネルギー政策を明らかにするために、イタリアの国家持株会社ENI(炭化水素公社)のリビアにおける油田開発について研究史整理と史料調査を行った。また、イタリアとリビアとの歴史的な経済関係を明らかにするために、米ノッタ―文書を用いて、20世紀初頭からのイタリアによるリビア侵攻と植民地支配の内容、イタリアの敗戦後の植民地割譲をめぐる連合国内での議論の内容を検出した。
3: やや遅れている
2015年下旬のパリでの連続多発テロ及びその後のヨーロッパ情勢の緊張を受け、イタリアおよび英国への海外渡航を見合わせたため、初年度の課題である現地公文書館での史料収集が予定通り進捗しなかったため。
世界銀行文書館やイタリア銀行文書館、バンカ・インテーザ文書館を中心に史料収集を行う。世界銀行や輸出入銀行、ニューヨーク連銀、米国政府などの史料から、戦後から1960年代のイタリアによる援助・融資の要請と諸機関による審査内容を検証する。また、イタリアにおける復興・開発援助の資金受け入れや、そうした融資に基づいた大規模投資計画の立案や実施について、南部開発金庫や公的金融機関IMI、国家持株会社IRIの史料をもとに検証し、1950年代のイタリアにおいて経済成長や地域間の経済格差の是正、企業の国際競争力の増強に向けてどのような政策が論議され、そうした政策に公的機関がどのように関わり、資本市場がどのように整備されたかを明らかにする。さらに、イタリアの大銀行の文書館において取締役会議事録や営業報告書、頭取の個人文書等を調査・収集し、1950年代半ば以降の外為管理の規制緩和を受け、イタリアの外国支持本市場へのアクセスがどのように行われ、イタリアの金融市場にどのような影響を与えたか、実態を究明する。加えて、当時のイタリアにおける公刊物を調査し、財政政策や経済計画、国際経済協調に関する同時代の議論から、同時代人の認識を析出する。得られた考察結果を国内外の研究集会で報告し、研究者からの批判や助言を仰ぎつつ、さらに研究を進める。
イタリアおよび英国での史料収集を見合わせたため初年度に計上していた海外旅費が未執行となった。
2016年度に英・米・イタリアの公文書館での史料収集を行う。
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