研究課題/領域番号 |
15K03593
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 カンナ 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (30334999)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イタリア / 戦後復興 / 開発計画 / 世界銀行 |
研究実績の概要 |
今年度は、イタリアの公文書館・史料館において史料の調査と収集を精力的に行うとともに、これまでに収集した史料を分析・考察して得られた成果を学会・研究会で報告した。 イタリアは、1947年に急進的な通貨改革と財政引締め政策を断行し、インフレを終息させた後も、通貨安定=インフレ抑制・財政赤字削減と国際収支均衡を最優先課題とした。一方、失業問題と南北の経済格差の是正も早急な対応が要請される課題であり、この解決のため、戦後は、国内の安定性の維持と大規模開発計画の実施を両立して進めるため、外国からの資本導入を図った。 1948年、イタリア政府は、世界銀行に11件の産業プロジェクト融資を要請した。世銀は南イタリア開発計画に参加する条件として、融資先となるTVA(テネシー川流域開発公社)モデルに基づいた単一公社の設置(南部金融公社・1950年設立)と、精緻で信頼できる投資計画の準備を要求した。南部開発計画は、1946年に結成されたSvimez(南部産業発展連合)が3年間の南伊研究の蓄積をもとに練り上げ、1949年秋に世銀に提出された。同年末には世銀ミッションがイタリアにおいて直接検証を行い、世銀とイタリア当局との間で激しい議論が繰り返された。 当時世銀経済局にいたローゼンシュタイン=ロダンは、南イタリアは先進国の中の低開発地域であり、低開発国の特徴をすべて持つと考えた。Svimezとローゼンシュタイン=ロダンの協業によって、世銀融資は、1947年以来イタリアの金融政策の要であった通貨安定と国際収支均衡を念頭に置き、特定のインフラ事業への融資に制限せず、投資計画で生じる追加輸入に必要な外貨の準備も認めるという内容が選択された。1960年までの世銀によるイタリア向け借款のうち、最初の2件が上記のようなインパクトローンのスキームで行われ、イタリアの国際収支に著しく貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該課題の研究においては、イタリアおよびアメリカでの史料収集が極めて重要であるが、イタリア側での史料について、突然の開示中断や、現地の治安の悪化などがあったため、資料収集が非常に遅れたため。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカの国立公文書館、世銀史料館、イタリア中央銀行史料館、南部開発公社史料館、イタリア動産金庫史料館などで史料収集し、戦後復興期から「奇跡の成長」期のイタリアの復興・開発計画がどのように構想・形成されたのかを、明らかにしていく。また、政策構想者のプロフィールや人的ネットワークに光を当てていく。得られた結果は、研究会などで報告し、論文にして発表することで、他の研究者からの批判やご指導を仰ぎ、より精緻化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度、2016年度にEU各国におけるテロ事件の頻発と、イタリアの史料館における公開史料の突然の閉鎖により、現地への渡航や長期滞在を見合わせるなど、史料収集計画が見直しを余儀なくされたため。
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