本研究は,第二次世界大戦後の国際協調体制におけるイタリア経済の発展について、EU統合やブレトンウッズ体制といった戦後の国際的な政策協調の取り組みがイタリアの経済政策運営に与えた影響に光を当てるとともに, 20世紀のイタリア経済を特徴づけた国家持株会社制度や代表的な国家持株会社IRI出身のテクノクラートたちの政策思想や国際的な人的ネットワークが経済政策や投資計画の立案・実施に及ぼした影響などを検出し、戦後の国際協調体制とイタリア経済の「奇跡の成長」の連関を明らかにしている。 戦後のブレトンウッズ体制やヨーロッパ統合といった国際的な政策協調の取り組みはイタリアの経済政策運営に無視できない影響を与えた.IMFの14条コンサルテーションで加盟国は通貨の安定と国際収支の均衡を要請され,イタリアのような国際収支赤字国は,大規模な開発投資の実施にあたり外部から制約を受けた.これに対してイタリアはIBRDに融資を要請し,IBRDはイタリアの南北格差問題はイタリア経済にとって最重要課題であるだけでなく世銀の融資プロジェクトとしても意義が大きいとして,南部開発計画向けの長期融資をインパクトローンの形で提供し,イタリアの国際収支への負荷を避け,南伊開発計画の実現に寄与した.世銀とイタリアの協力関係の背景には,南部問題を産官学で論じる南部発展連合の創設とそこに集った国際的な実務家,専門家,研究者たちの学術的な協業があった.その中心には 1933年からイタリアの産業・金融部門に幅広く関与した産業復興公社IRIのテクノクラートたちが存在した.IRIは戦後直後に憲法制定会議で存続が議論され,イタリア経済の再生に有用かつ最適という評価から存続が認められ,IRIの人材は中央銀行総裁や世銀代表理事として戦後イタリアの経済発展と南部開発を実現したことを明らかにした.
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