研究課題/領域番号 |
15K03594
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
杉山 裕 大阪経済法科大学, 経済学部, 准教授 (10720948)
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研究分担者 |
大島 久幸 高千穂大学, 経営学部, 教授 (40327995)
齊藤 直 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 准教授 (90350412)
上原 克仁 天理大学, 人間学部, 講師 (60509157)
湊 照宏 大阪産業大学, 経済学部, 准教授 (00582917)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内部労働市場 / 人事労務管理 / 台湾製糖株式会社 / 戦前日本の製糖業 |
研究実績の概要 |
本研究は、植民地台湾の製糖企業である台湾製糖株式会社の人事データ(「社員台帳」)を分析し、戦前日本の海外進出企業における内部労働市場のあり方や、人事労務管理の諸施策を明らかにするものである。「社員台帳」の本体9冊、1234件の個票データの入力(業者へ委託し入力)は平成27年度に完成している。この部分については、データの加工と分析を行い、学歴を含む台湾製糖入職前の履歴、台湾製糖での勤続年数(入社から1944年までの勤続期間)、初任配属先などを明らかにした。また、データの状態が良好なサンプルを抽出して、入社後の昇給・昇進の実態を分析した。この作業により、台湾製糖における工職別の昇給・昇進の基礎的な傾向を把握することができた。なお、「社員台帳」には、在職中に死亡した者や退職した者のデータをまとめた「別冊」が2冊存在する。これについても、資料の複写・整理を済ませた後、データ入力を完了させ、「本体」9冊との比較分析を進めている。 海外製糖業に関する先行研究サーベイの結果と、「社員台帳」のデータ分析結果を比較することにより、「社員台帳」に収録されている従業員の属性や台湾製糖の従業員管理の傾向を明らかにできた。製糖業は、甘蔗作という労働力需要量の変化が大きい分野を抱え込まざるを得ない。そのため、多くの非常用労働者を雇用する必要が生じる。この視点から「社員台帳」のデータを検証すると、収録されている従業員(工職とも)は同社の基幹的な存在と位置づけられ、極めて年功的に昇給・昇進の管理がなされている可能性があることが明らかになった。この点は、戦前日本の人事労務管理や植民地ないし台湾製糖企業に関する先行研究で十分に明らかにされていなかったことであり、この分野の研究に対する貢献であると言える。なお、以上の研究成果は既に論文としてまとめられており、『経済学論集』(大阪経済法科大学)に投稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗状況がやや遅れていると判断する根拠は以下の通りである。 第一に、「社員台帳」の別冊2冊は資料の痛みが酷く、その複写や整理に時間を要したことである。これにより、退職者等を含めたより包括的な考察に進むことができなかった。第二に、台湾製糖の人事労務管理は非常に複雑であることである。特に工員の入職初期の職位は多様であり、また入社時期によっても職位名称などに違いが存在する。さらに工員に関する情報記載は精密さを欠いているケースもある。こうした事情のため、全データを分析の俎上に載せるための準備作業(データから同社の昇進・昇給の制度を析出してゆく作業)に時間を要することになった。
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今後の研究の推進方策 |
分析のコアとなる「社員台帳」のデータ入力はほとんど完成しており、今後はデータを用いた分析の推進という、研究本来の作業に専念できる状態にある。また、公益社団法人糖業協会などでの資料調査により、台湾製糖の従業員管理に関する諸規定集の収集と分析を進めている。これにより、従来の研究に於いて最大のネックであった制度面に関する実態の解明が可能となり、個票データの加工や分析の効率性は大幅に向上させることが可能となった。今後は、研究分担者との間で効率的な作業方法と作業分担を決め、研究会の開催頻度を増やすなどの対策を取ることで、研究進捗の遅れを挽回できると考えている。 今後の研究の具体的作業については、社員台帳(本体9冊)の個票データを網羅的に分析し、台湾製糖における入職前履歴、昇進・昇給の全体傾向を明らかにし、戦前期日本の海外進出企業の内部労働市場及び人事労務管理の実態を示すこととしたい。また、この研究成果については、経済史ないし経営史の全国大会で報告し、そこで得られた示唆を加味しつつ学術雑誌に投稿することにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、まず、データの分析がはかどらなかったこともあり、研究成果を検討するための研究会開催頻度が減少してしまったことがある。また、同様の事情により、研究分担者が計画していた台湾での資料調査も実施できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
分析の制約条件となっていた従業員処遇に関する諸規定の収集などが進んだため、今年度は研究のスピードアップが可能であり、研究会の開催(=交通費の発生)頻度を増やしていく。また、日本国内に存在する各種文書資料の積極的な調査と収集にさらに注力することとし、そこで得られた知見を活用してデータ分析の効率化を図る予定である。
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