本研究は、自動車産業における研究開発の協働を対象にネットワーク分析を実施し、研究開発のイニシアティブの変遷を検討することであった。そのため、シリコンバレー地域での研究者へのインタビューによる質的調査のみならず、研究者間の協働ネットワークを対象に社会ネットワーク分析を行い、ネットワークの全体像、中心性、媒介性、構造的空隙、構造同値、クラスターなどの計量的・客観的な特性に着目して、量的な調査を実施した。その結果、インパクトの高い発明における研究参加者の多様性が年々増加していること、さらに、それに伴い研究開発の協働のイニシアティブが従来型の自動車メーカーから巨大I T企業や新興の電気自動車メーカー、さらにベンチャー企業に遷移していることが確認された。 以上の研究の学術的意義は、自動車産業における研究開発構造が資源依存、制度的同型化、機会主義に対する制裁に代表される系列の組織間関係のフレームワークから、オープンイノベーションの組織間関係のフレームワークへと急速に転換しつつあることを認識できたことである。つまり、研究開発における組織間関係のパラダイム・シフトが確認できたと言える。 また、社会的意義は、自動車産業での研究開発における自動車メーカーの存在意義が著しく低下しており、その一方で、大学やI T企業、ベンチャー企業の協働関係を構築するイニシアティブが飛躍的に増大していることを明示したことである。日本の基幹産業において、日系企業の競争力の低下が切実に危惧されるところである。
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