平成29年度においては、多角化が企業の財務政策(資本構造)に及ぼす影響、従業員給与に及ぼす影響、双方のテーマの分析を引き続き行うと共に、英語論文の作成と海外の学会を中心とする発表活動を行った。
前者のテーマについては、2001-2010年期間における上場企業をサンプルとするパネルデータに基づき、多角化した企業が1つの産業に特化した専業企業よりも高いレバレッジと低い現金保有を持つことを明らかにし、昨年度に公刊された書籍の一部として発表済みである。英語論文においては、特に内部資本市場の効率性と財務政策の関係に注目した追加的分析を行い、興味深い結果を得ることができた。現在この論文は、国際学術誌での査読結果を踏まえた修正を行っている段階である。今後においてもFinancial Management Association等の学会での報告が決まっているため、それらの場で得られるフィードバックも反映させて、論文としての完成度を高めていきたい。
従業員給与の分析については、財務政策の分析と同様なパネルデータに基づき、多角化の及ぼす影響が従業員の交渉力によって質的に変化するという興味深い結果を得た。具体的には、多角化の賃金効果は、労働組合が存在するなど従業員が強い交渉力を持つ場合にはプラスであり、交渉力が弱い場合にはマイナスとなる。平成29年度においては、International Atlantic Economic Societyなど海外の学会を中心に発表を行い、フィードバックを得ることで、分析と論文の改善をはかってきた。現在は国際学術誌において査読審査中であり、その結果を踏まえた修正作業を行っていく予定である。
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