この研究では、企業の産業多角化が従業員にもたらす影響を、特に賃金に注目して実証的に分析した。多角化による内部資本市場の形成は、事業間のコインシュランスを通じて企業の安定性を高めるものと考えられるが、それが賃金に及ぼす影響は従業員の交渉力によって質的に変化する可能性がある。2001年から2010年の日本の上場企業のデータに基づく分析の結果は、この仮説と整合的である。具体的には、労働組合の無い企業では多角化が給与にマイナスの影響を及ぼすのに対し、組合の存在する企業では影響がプラスになることが示された。これは従来の研究では知られていない新しい発見である。
|