本研究は模倣からイノベーションが生まれるメカニズムを学習の視点から解明しようとする研究である。昨年度まで、トヨタ生産システム(TPS: Toyota Production System)を源流とするNPS(New Production System)というものづくりの実践共同体についての調査を進めてきた。これは、各業界を代表するような企業が集まった集団で、相互に、代理学習と経験学習を重ねることによって生産イノベーションを引き起こしている。この団体にフィールトドワークを行い、機関誌をテキストマイニングすることで、模倣によるイノベーションを集団で創出するための一般的な知見を導き、昨年度までにいくつかの仮説を導くことができた。 最終年度は、これまで得られた仮説や命題が外部妥当性(一般化)を持ちうるか否かを確かめつつ、これまで得られた知見を総合してより発展的な命題を打ち立てるための調査活動を行った。すでにものづくりの実践共同体へのインタビューと観察は行ってきたので、次は起業家コミュニティにおける模倣行動に注目した。具体的には、製品・サービス・ビジネスモデルの創造のプロセスについてインタビュー調査(複数回にわたる経過観察)を重ね、アイデア発想時に、いつ、何を、どのように模倣したのかを確認した。 その結果、創造性についての一般的な通説とは逆を行くような実態が明らかになった。すなわち、創造的なアイデアの背後には模倣があること、一人の天才ではなくチームによってアイデアが生み出されていたこと、その世界に精通した専門家ではない人がアイデア発想の起点になっていたこと、一定の制約が創造性に結びついていたことなどである。これらの結果は、昨年度までのものづくりの現場での実践共同体における相互学習の研究から得られた知見と一致する部分が大きく、今後の理論構築に有用であると考えられる。
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