本研究の目的は、世界金融危機前後における多様性の取り組み姿勢が組織成果に作用するメカニズムの解明である。平成27年度から29年度までに、1)既存の調査研究のサーベイ、2)定量分析、3)定性分析、4)海外の研究者からの情報・資料収集 の4つの方法で、調査を実施した。2)定量分析については、世界金融危機前後の多様性に対する姿勢と業績回復の関係性の解明のために、日本の上場企業上位500社、米国売上高上位500社、世界売上高上位500社の企業データを基に、2008年9月(世界金融危機)の「前の」、あるいは「後の」、多様性の取組み姿勢とその「前後の」変化がその後の業績回復に与える影響を時系列で分析した。3)定性分析については、特定の企業(多様性の取組み姿勢の変化が業績回復にプラスに影響した企業)に対し、ヒアリング調査も実施した。世界金融危機前後の戦略の変化、取組み姿勢の変化をどのように受け止め実行したか、そのことが職場の成果にどのような影響を与えたかを調査した。その結果、次のようなことが明らかになった。第1に、危機前から正の効果を期待して主体的に取り組んでいた企業は、それ以外の企業と比べて業績回復が早い。つまり、危機前の好況期に多様性をいかす組織作りに取り組んでいた企業の業績は、一時的な低下後、速やかに回復していた。 第2に、金融危機後、多様性をいかそうと取り組んだ企業は、それ以外の企業に比べて業績が回復していなかった。事業環境の激変悪化時に慌てて取り組むと、多様性の負の効果が大きい。第3に、危機前にも後にも取り組まなかった企業は、危機前から主体的に取り組んだ企業に次いで回復が早い。つまり、事業環境が激変悪化した際には取り組まない方が賢明ということが明らかになった。
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