本研究は、中小企業の中でも所有と経営が一致するような同族企業に焦点を当て、「財産および経営の承継」である事業承継の中でも特に「経営の承継」、つまり経営権と実務執行の移転問題を考察の対象とする。その上で、従来関心が寄せられてこなかった、経営の移転と企業業績をはじめとする様々な財務パフォーマンスとの関係性を明らかにしようとするものである。これにより、わが国の中小企業の多くを占める同族企業の事業承継における財務管理機能の役割と課題を抽出し、企業を継続的に発展させるための要因と望ましい姿を明らかにすることを目的としている。 補助事業期間延長申請を行って承認いただいた平成30年度は、これまで行ってきた欧米を中心とする先行研究のレビュー、国内外の研究者との意見交換を引き続き行いながら、それらを集約してまとめの作業を実施した。また、平成29年度に着手したM&A(企業の合併・買収)における企業価値評価が「財産の承継」および「経営の承継」に与える影響についてもこれまでの知見を集約する作業を行った。加えて、本研究の到達点である経営の移転と企業業績をはじめとする様々な財務パフォーマンスとの関係性を明らかにするために、「経営の承継」を行った複数の中小企業経営者からヒアリングを行って実態の把握に努めた。ただし、こうしたテキストデータについては個別のテーマそれぞれで蓄積はされつつあるものの、十分な分析ができておらず、今後の課題となっている。
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