研究計画で対象とした調査先企業における調査を、2019年2月から3月にかけて集中的に遂行した。過去の年度における、自然災害を原因とした文書館側の資料復旧だけでなく、復旧に合わせて新資料が補充されたため、比較的近年に勤務したドイツ企業の取締役にかかわる内部資料についての調査が大きく進展しただけでなく、取締役と同様に使用者的権能を行使することが多い、大企業の国内外の子会社の社長に対して適用された人的資源管理に関する実態についても、調査を大幅に進めることができた。特に、後者のグループに関しては、これまで法律学を除いては、使用者と被用者のグレーゾーンであったため、経営学の分野では十分な研究の蓄積がなかったため、新しい研究分野の開拓につながることが期待される。取締役に対する人的資源管理と行動規範の形成との関係について、最終年度までに得られた結論は、以下のようである。まず、家族企業、純粋な経営者企業の両方において、監査役会は任免権の行使を通じて、取締役の行動規範を統制することができる。だが、家族企業においては、取締役を有効に統制し、問題のある行動により経営に損害を与えるおそれのある行動を相当にコントロールできているのに対し、純粋な経営者企業では、取締役が自律的に行動する余地が大きいことが指摘される。後者は、経営の専門家としてのトップマネージャーの企業を超えた紐帯により、強化されていることが確認できる。このような紐帯を、ドイツが有するとされる「調整型経済」の構成要素の一つとみなすかどうかは、議論が必要であろう。。
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