研究実績の概要 |
本年度は研究の最終年度として、世界スマートフォン市場や技術の変化を再確認しつつ、特に世界の主流となった中国企業と市場に焦点を当て、企業の戦略の変化と企業境界(分業)の選択パターンを分析し、その成果をまとめた。 研究成果は、まず、陳・朴・中岡(2018)は、中国スマートフォン企業の競争優位と、多数の企業が入りまじる中国スマートフォン市場の競争全体像を把握し、端末の性能と価格を軸に主要中国企業のポジショニング/競争戦略とその推移を明らかにした。第二に、昨年度中国スマートフォン企業の特許分析を行った結果や分析モデル(Chen, Park, Nakaoka, 2018)を援用し、ラディカルイノベーションに直面している自動車産業を事例に分析したのはPark, Nakaoka, Chen(2019)や中岡ら(2019)がある。前者は、自動車産業はスマートフォン産業と同様、研究開発組織の硬直性や組織能力、ビジネスモデル等は企業間の分業の選択に影響を与えるという結果を得られ、後者は日本企業の自動運転技術の技術開発動向などを明らかにした。 スマートフォン技術の変化という切り口より、競争優位を失ったスマートフォン企業のビジネスエコシステムのその後を調査するために、海外実地調査を行った。調査先は、フィンランドのオウルにある統括機関Business Ouluや、ベンチャー企業のHaltian、Butterfly Ventures、Creoir、IndoorAtlasであった。オウルはかつて携帯電話の最大手Nokiaを中心にIT産業集積として発展してきたが、Nokiaが崩壊した後、放出されたNokia技術者やオウル市、オウル大学、投資ファンドといったアクターを中心に5G技術をめぐって新たなビジネスエコシステムを構築し復興しつつある。オウルの事例は日本ICT産業への示唆を踏まえて深く掘り下げていきたい。
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