研究課題/領域番号 |
15K03671
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研究機関 | 青森大学 |
研究代表者 |
岩淵 護 青森大学, 経営学部, 准教授 (50567881)
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研究分担者 |
百武 仁志 大阪観光大学, 観光学部, 講師 (50442025)
中村 和彦 青森大学, 経営学部, 准教授 (60590685)
堀籠 崇 青森大学, 経営学部, 准教授 (80547357)
松本 大吾 青森大学, 経営学部, 講師 (40746757)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 産業集積 / クラスター化 / 戦略システム / リンケージ / プラットフォーム化 / 経験経済 / モジュール化 / 取引費用 |
研究実績の概要 |
◆本研究の目的は、グローバル体制下における地域間ネットワーク形成の在り方、およびそれにともなった産業変容の解明にある。平成28年(2年目)研究計画は、1)国内におけるインテグラル型産業が形成するクラスターの現状に関する検証、2)愛知県の現地企業を訪問し、聞き取り調査およびアンケート調査の実施を行うことであった。
◆1)では、27年(1年目)研究計画 1)で従事された「産業集積の形成およびクラスター化の現状を分析する為の理論的フレームワーク」の理論的補強が行われた。フレームワークは「戦略システムの整合面」,「ネットワークシステムの整合面」,「実態システム」の3側面から構成されており、地域システムにおける「実態システム」の状況から、「戦略システムの整合面」に向けてフィードバックされるための仕組みとして、“社会費用ならびに取引費用にもとづいたループ”、“リンケージ概念や取引費用などに基づいた価値の統合(擦り合わせ:インテグラル)プロセス”として理論補強がなされた。これを用いた実用的な分析も試みて、商業集積や観光産業集積などのサービス産業を対象とする考察、南アジアにおける産業クラスター化の事例など日系企業と現地産業の関係性から価値創造がなされるプロセス考察を行った。平成28年度業績は、①地域経営学会(5月・7月・10月),②日本工業経営学会(6月)、③マクロ政策分析研究会(8月)を通じた発表報告として整理された。
◆2) では「愛知県の現地企業を訪問した聞き取り調査およびアンケート調査の実施」の為のアンケート制作に従事した。制作上のコンセプトとして“クラスター化とネットワーク化(長期的取引の形成プロセス)”,“モジュール化の進行と海外展開”がある。これがプラットフォーム化やグローバルネットワーク化を通じたクラスター融合や経験経済化への適応に応用され、価値創造プロセスの解明に繋げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)国内におけるインテグラル型産業が形成するクラスターの現状に関する検証、2)愛知県の現地企業を訪問し、聞き取り調査およびアンケート調査の実施を行う予定であったが、28年度を通じて定性分析(取引費用分析)の素地となるアンケートの制作に終始した。その理由として理論分析のためのフレームワークである“戦略プロセス”の見直し改善への従事、ならびにそれを意識したフレームワークの実際的な活用を深めるためのフィールド調査が最優先されたことなどがあげられる。 1)青森県内でのコンセプト:下北ジオパーク,六ヶ所村クリスタルバレイ跡地活用事例 2)県外でのコンセプト①経験経済:北海道七尾町どさんこミュゼ,山口県萩市世界遺産3)県外でのコンセプト②アウトバウンド:アメヤ横丁(上野),中延商店街・戸越銀座商店街(品川),中野サンモール商店街(中野),谷中銀座商店街(谷根千) 4)国外でのコンセプト:スリランカ・ノリタケ工場(陶器産業による経済開発の試み)
平成28年度はインテグラル型産業である自動車産業が、海外展開を通じた取引ネットワークを介してその産業特性においてモジュラー化を深めていくという仮定の検証が目標となっていた。つまりハブ&スポークな統治ネットワークとメッシュな価値創造ネットワークからなる共生的なネットワーク構築の過程に注目し、これを定性分析によって検証を試みる予定であった。その前段階の取り組みとして、共生的なネットワークの考察を試みるために不可欠な要素としてプロジェクト管理の理論検証を行い、目的合理性にもとづいたグランド・ストラテジ策定、ならびにそれを実施する上で必要とされる戦略的計画策定の見地において考察を深め、これを組織論、経営戦略論、ステークスホルダ論、法と制度の経済学のアプローチなどを援用させながら検証を行った(これについては8月のマクロ政策分析研究会において報告を行った)。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成27年から平成28年までの基盤研究を通じて改善を続けてきた理論フレームワークを用いた事例検証を行う。その手法は企業アンケートを活用した情報収集と情報分析を前面に打ち出した研究行動として転進を図っていきたい。また研究計画にもとづいて「国内における異業種間におけるクラスター融合の現状に関する検証」が開始される。その指針としては、東北シリコンロードの経緯を踏まえた九州シリコンアイランドの比較研究を通じて、半導体産業と自動車産業、環境・エネルギー産業との融合事例について考察を深めていく。取引ネットワーク化(クラスター化)を通じて、産業集積は緩やかなネットワークから、硬度なネットワークとして形成されるようになる。つまり長期的取引の傾向が高くなり、またそれに加えて、産業に向けられたモジュラー化圧力も強く作用することで、生産プロセスは海外展開を見せる傾向を強めていく。これにより産業クラスターの形成過程は、その地域における市場や社会の特性に左右され、ネットワーク適応された産業クラスターが発生することが予想される。拡張されるネットワークは、グローカルなネットワークとして国内外における地域資源をネットワーク統合し、調整する機能を有していく。今後ネットワークは、プラットフォーム化にもとづいた効率性や自己最適化のための柔軟性を有するようになる。産業集積がグローバルなネットワークとして拡張されていくのか、それともその地域における経験経済化への適応段階までを目指したクラスター融合化へと繋がっていくのかという分水嶺が課題となる。その視点を深めがなら考察を行う為には、リンケージの概念、社会費用の概念を通じた価値の擦り合わせ(インテグラル)過程にもとづいた考察が必要となる。よって平成29年度より、研究分担者として2名の研究者を新規に加えることで研究の充実化を図っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は前年に繰り越された三重県におけるクリスタルバレイを対象としたアンケート調査および分析のための費用が使用されなかったこと、愛知県におけるトヨタ自動車に関するアンケート調査および分析のための費用が使用されなかったことが理由としてあげられる。
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次年度使用額の使用計画 |
アンケート調査の対象を再検討し、本年度に繰り越して実施される予定である。
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