本研究は開発者たちが直面する「制約」が新カテゴリー製品の創出につながることを見出すことを目的に進めてきた。だが、研究を進める過程において本事例においては、「制約」の識別が難しいこともあり、「制約」にはとらわれず、新カテゴリー製品の創出プロセスに関して従来の知見とは異なる新規の知見の発見に努めた。その成果として、本年度は製品コンセプトに注目して、新カテゴリー製品の創出プロセスを解き明かし、同時に開発者たちの「社会・知識の立脚基盤」の変化についても解き明かすことに成功した。 研究対象とした「ヘルシオお茶プレッソ」は、当初は既存の製品カテゴリーに属する製品として開発が行われたが、開発途中に路線変更を行い、既存の製品カテゴリーから脱し、独創的な価値を持つ新製品として開発された。製品カテゴリーという社会・知識の立脚基盤を変える際には、積み上げていた知識の見直し、時によっては総取替え、ゼロベースからの知識の積み上げが求められる。その中で、製品コンセプトもシフトが生じていたことが本研究から明らかとなった。製品カテゴリーは、開発者たちにとっての社会・知識の立脚基盤としての機能を持っている。そのため、製品カテゴリーが変わるとき、開発者たちにとっての社会・知識の立脚基盤は新しいものへと置き換わる。ただし、新たな社会・知識の立脚基盤はすぐに安定したものとはならない。新たな社会・知識の立脚基盤に基づき設定される製品コンセプトの可能性を検討し、その見直しやストーリー、メタファー、プロトタイプについて試行錯誤を経て、新たな社会・知識の立脚基盤を開発者メンバー間で共通し、安定したものへと移行させていく必要がある点を指摘した点は本研究の貢献の一つである。 成果として以下の論文の掲載が決定した。 ・陰山孔貴・竹内竜介(2018)近刊「製品カテゴリーを越えた製品開発と製品コンセプト」『日本経営学会誌』第41号
|