本研究は、企業に入社した新卒の従業員が、組織に適応し、組織社会化されるプロセスを観察することによって、離転職と継続就業を分ける要因を分析するものである。そのために、長期間にわたって単一組織に所属する者と早期に離職する者を調査・分析した。 本年度は、これまで継続的に行ってきたインタビュー調査をまとめ、既存のアンケート調査の二次分析と比較し、さらに新しく参加した大規模質問票調査の知見などもふまえて、本研究の集大成を行った。 インタビュー調査の知見としては、第一に、若年者の就職活動期における企業や仕事に対するイメージは必ずしも明確ではないということである。その結果として、入社後にイメージのギャップが発生している。第二に、職場内の人間関係が離職を抑制する要因となっていることである。同期入社従業員同士のコミュニケーションや上下のコミュニケーションによって離職を思いとどまる可能性が高まると考えられる。第三に、離職を考える原因は、人間関係の不調と仕事に対するイメージのギャップによるものであるというものである。 これらの知見を他の調査でも確認するために、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターから提供を受けたいくつかの個票データを再分析した。その結果、性別や年齢(社会人経験)、学歴、企業の規模などの外形的な要因によって離職率が異なることが確認された。また、退職理由に関しても、労働条件などのいわゆる衛生要因と、仕事内容、人間関係といった動機づけ要因などが挙げられていることがわかった。また、職務経験や転職経験よって、仕事や能力に対する自らの主観的認識が異なっていることが観察された。これらは、インタビュー調査で発見された事と整合的であるといえる。 今回の調査をふまえて、従業員の組織への適応プロセスに関する統合的な理解をさらに深めていきたい。
|