2019年は訪問調査とアンケート調査の定量分析を実施した。訪問調査では、企業間の知識交流を調査するために複数の企業で社員寮をシェアする取り組みを調査した。調査したシェア企業寮には、航空、シンクタンク、銀行、不動産など業界を超えた24社の社員が入寮しており、企業を超えた交流により入居者は日常的に刺激を受けるとともに、組織を超えた知のネットワーク形成を促していた。 次に、定量分析では、「元気なモノ作り中小企業300社」の1200社を対象に行ったアンケート調査の回答企業データを分析した。分析に入る前に、技術連携、組織ネットワークおよびサプライヤーシステムの研究者と意見交換を行い、本研究の分析方法や結果の解釈について助言を得た。それらの助言を残りの研究期間での調査・分析の計画にできる限り反映した。研究者以外にも、インキュベーション施設、医療系ベンチャーキャピタル、起業支援会社からの意見も参考にした。分析は、知識の探索を積極的に実施する組織とそうでない組織の差を生み出している組織要因に焦点を当てて行った。具体的にはアントレプレナー研究の組織志向性とマーケティング研究の顧客志向に着目した。統計分析の結果、想定した志向性の一部は「探索」活動に好影響を与えていた。仮説は部分的に支持され、「探索」活動を積極的に展開する組織の特性の一部を明らかにできた。 本研究の目的は、開発型中小企業を対象にして、外部組織の知識を探索し活用する企業行動と業績との関係を明らかにすることである。文献サーベイ、聞き取り、アンケート等により外部知識を探索し活用しようとする組織の特質について探求し、一定の成果を得た。その一方で、外部知識の探索・活用と業績との関係の解明は、質的調査による部分的なエビデンスに留まり、定量的な実証までには至っておらず、今後の課題として残っている。
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